研究課題/領域番号 |
12J02462
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
許 挺傑 筑波大学, 大学院・人文社会科学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 異文化接触場面 / コミュニケーション・ストラテジー / 中国人日本語学習者 / 縦断的な発話データ / 発話ストラテジー / 聞き返し / 言語習得 |
研究概要 |
本研究は、接触場面における日本語学習者のコミュニケーション・ストラテジー(発話ストラテジーと聞き返しのストラテジー)の使用実態を明らかにすることを目的としている。本年度の研究は主に(1)接触場面において、学習者の用いる聞き返しのストラテジーが時間の経過と共にどのように変化するか、言語能力の差によってストラテジーの使用がどのように異なるかを究明することと、(2)ストラテジーの使用が日本語の習得にいかなる形で貢献できるか(限界も含め)を検討することの2点である。(1)については、聞き返し使用の変化は滞日期間の長短よりも、その期間中における言語能力の伸びの度合いが関係していることがわかった。言語能力の伸びが大きかった学習者は伸びが小さかった学習者と比べ、聞き返し使用の回数や形式等(特に「言い換え型」聞き返し)において、大きな違いが観察された。この違いは学習者の聞き返し連鎖のパターンや連鎖の長さにも影響していることが明らかになった。(2)については、ストラテジーがどのような語彙の産出に使用されていたかという観点から、学習者発話の語彙調査を行った。その結果、発話産出上の問題を、相手と共同で解決する「共同解決型の発話ストラテジー」が旧日本語能力試験の級外語彙に多く使用されていたことが分かった。教科書以外で接触する級外語彙の産出に多くの共同解決型の発話ストラテジーが利用されていたことによって、共同解決型の発話ストラテジーの使用が学習者の日本語語彙の学習の手段の1つであることが実際の発話データの検証で実証されたといえよう。((2)の結果に関しては、平成25年度に行う「聞き返しのストラテジーがどのレベルの語彙の聴解に利用されているのか」という調査の結果も含める形で「接触場面におけるコミュニケーション・ストラテジーの使用と日本語語彙の学習」という題目で『筑波応用言語学研究』第20号に投稿する予定。)
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究の目的」に挙げた1点目は上記報告の通り、概ね順調に進展している。2点目は(1)学習者の聞き返しが相手発話のどのような語彙の聴解に使用されるか(語彙的な側面)、(2)聞き返しの使用により開始される意味交渉がどのような結果をもたらし、その結果が学習者の発話産出にどのように影響するか(相互行為的な側面)という2つの観点から考察する予定であったが、会話の文字化資料の精緻化作業に予想より時間がかかったため、十分に考察できなかった。したがって、昨年度の研究活動の全体的な達成度としては、(3)やや遅れていると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は以下の2点を中心に研究活動を行っていく予定である。(1)会話の文字化資料の精緻化作業が完了したことをうけ、昨年度十分に検討できなかった「聞き返しの使用が日本語学習者の言語習得にどのように貢献できるか」という研究課題を、「語彙的な側面」と「相互行為的な側面」という2つの観点から行っていく。(2)談話資料に現れない学習者の意識面の特徴を明らかにする調査方法(アンケート用紙)の開発とそれを用いた研究である。この研究に関しては、日本語学習者のストラテジー使用に特化した質問紙の開発がまだなされていないため、研究が進んでいる英語教育分野の関連文献を参考にし、日本語の特徴を意識した質問紙の開発を行う。そして、その質問紙の妥当性を検討したうえで、日本国内外の日本語学習者を対象にアンケート調査を行っていく予定である。
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