研究課題
中間赤外線天文観測により,酸化的な進化末期の恒星(漸近赤色巨星)や若い恒星周囲(原始惑星系円盤)に,珪酸塩や酸化物などの微小鉱物(1ミクロン程度)が一般的に存在することが明らかにされてきた.晩期型巨星で凝縮したダストは,中心星からの質量放出風により星間空間に放出され,一部は太陽系母体の分子雲,さらに原始太陽系円盤に取り込まれ,太陽系の原材料物質となったと考えられている.始原的隕石中にまれに含まれるプレソーラー(太陽系前駆)粒子は,進化末期の巨星(AGB星)や超新星爆発に特有の同位体組成を示すため,進化末期の恒星でできたダストの生き残りである.赤外観測スペクトルを用いて進化末期の恒星に存在する星周ダストを調べること,また,プレソーラー粒子を分析し,進化末期の恒星から初期太陽系までの様々なプロセスを遡って読み解くこと,の二つを組み合わせることで,ダストの形成から太陽系の材料物質となるまでを明らかにすること目指して研究をおこなっている.本年度は,昨年度に非平衡普通コンドライトQUE97008を酸処理して取り出したアルミナ粒子と過去に同定したものの酸素同位体が未測定であったアルミナ粒子約150粒子の酸素同位体組成分析をおこなった.また,カーネギー研究所所有の二次イオン質量分析装置を用いて 24Mg, 25Mg, 26Mg, 27Alを測定した.同定されたプレソーラー粒子の内部構造分析から,これまで天文観測および理論的に予測されてきた,星周ダストの星間空間での粒子粒子衝突による破壊過程の証拠を初めて示した.
1: 当初の計画以上に進展している
複数の分析装置を組み合わせることで、始原的隕石中から見出した1ミクロンサイズのプレソーラー(太陽系前駆)粒子の内部結晶構造を研究し、粒子が星周シェルで凝縮後、二次的に形成したと考えられる構造を複数発見し、これまで天文観測や理論などから予測されてきた星間空間での粒子同士の衝突過程を実証した.また、京都大学でおこなったイオン照射実験の結果の分析から、プレソーラー粒子にみられる特徴的な表面構造の起源が、星間空間や原始太陽系でのガス粒子衝突によるダメージ層の形成、および隕石酸処理中におけるダメージ層の溶解によるものと提案した。特に星間空間での衝突過程の痕跡は,星間ダストの変成過程を考える際に,粒子線照射だけでなく物理的な衝突を考慮する必要があることを示す成果である.
京都大学に帰学後,研究室保有の透過型電子顕微鏡を用いて,同定したプレソーラー粒子の内部構造分析を進める.特に,凝縮核となりうるサブグレインの有無,化学反応や星間空間での非晶質化過程の有無に着目して分析を進めることが重要である.これまでに得られた結果をもとに,コランダム凝縮実験およびそのスペクトル計算の結果を論文として成果公表する.北海道大学でイオン照射実験装置を改造し,低エネルギーでのHeイオン照射実験をおこなう.昨年度に行った若狭湾エネルギーセンターでの実験結果と合わせ,宇宙風化によるコランダムの表面構造変化が照射イオンのエネルギー依存性の有無を明らかにし,宇宙風化構造から粒子線照射条件が推定できる可能性を議論する.最終年度であるため,これまでのダスト形成および星間空間での変成,隕石の人為的な処理による構造変化までを含めて,プレソーラーアルミナ粒子の形成と進化モデルを提示する.
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Geochimica Cosmochimica et Acta
巻: 124 ページ: 309-327
10.1016/j.gca.2013.09.013