研究課題/領域番号 |
12J02568
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
長谷川 佑介 筑波大学, 大学院人文社会科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 語彙習得 / 意図的語彙学習 / 文脈 / 英語教育 / 心的イメージ |
研究概要 |
文脈の読解を伴う語彙学習の効果を検証するため、これまでに複数の実験を実施している。そこで得られた重要な示唆は、文脈内での語彙学習には文脈から構築される心的イメージと目標語の意味概念を結びつけるプロセスが含まれるという点と、文脈の内容のイメージしやすさ(文脈心像性)が語彙学習に与える影響は学習者の熟達度によって異なるという点であった。その発見の一般化可能性を探るため、本年度はより長期的な視点での実験と、英語熟達度の異なる学習者を対象とした実験などを実施した。その結果、文脈心像性の影響は学習の1週間後も持続するが、特定の熟達度を持つ学習者に対して最も顕著であることが明らかになった。いくつかの関連する実験のうち、特に大学生84名を対象とした実験では、実験協力者を3つのグループに無作為に振り分け、目標語を高心像性文脈とともに学習する群、低心像文脈とともに学習する群、そして文脈を与えない群のテスト得点を比較した。その結果、high-intermediateレベルの語彙力をもつ学習者は、従来の研究で考えられていた以上に文脈内容に対して敏感であるということが分かった。このことは、高校生と大学生を対象とした別の実験において、文脈の提示が学習目標語のイメージしやすさを高めるという現象が、大学生の群においてのみ観察されていたこととも一貫性がある。なお、この実験結果を報告した論文は、2013年度日本言語テスト学会最優秀論文に認められている。これまでに得られた実験結果は、文脈内での語彙学習プロセスをモデル化することによって、より体系的に説明することが可能であると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
語彙の概念習得における文脈読解の機能を明らかにするという3ヶ年を通しての目標を達成するために、前年度の研究成果に基づいて、当初の計画を修正して研究を行った。具体的には、次年度に予定していた実験の構想を前倒しして実施しつつ、前年度の実験を発展させることで文脈の影響が特定の学習者群にのみ見られるという適性処遇交互作用を発見した。研究成果は国内の査読つきジャーナルへの掲載や海外学会での発表などの形で公表し、日本言語テスト学会最優秀論文や英国応用言語学会最優秀ポスター賞などの形でも高く評価されている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに得られた実験結果に対して体系的な説明を与えるためには、文脈内での語彙学習プロセスをモデル化する必要がある。先行研究のモデルに基づくと、日本人英語学習者の文脈読解プロセスには、言語情報の解析を行う処理と記述内容を心的イメージによってトップダウン的に把握するような処理が含まれると考えられる。しかし、従来のモデルは学習者の注意が文脈内容の理解に向けられているときの読解プロセスを説明するものであり、学習者が語彙学習を目的に文脈を読んでいる際のプロセスとは完全には一致しない。そこで、本研究の成果を体系化するためには、既存のモデルに修正を加えることで新たなモデルを提案する必要がある。研究の第3年度にあたる2014年度は、新たな心理言語学的モデルの提案に向けて、当初の研究計画には含まれていなかった実験を実施していく予定である。具体的には、文脈内での語彙学習をしている際の注意や思考を発話させる手法(思考発話法)を用いた実験に着手している。
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