研究課題/領域番号 |
12J02571
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
太田 由佳 明治大学, 研究・知財戦略機構, 特別研究員(PD)
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キーワード | 本草 / 博物 / 稲若水 / 庶物類纂 / 本草綱目 |
研究概要 |
本年度は研究の初年度として、まず、本研究が対象とする「江戸前中期における本草学知」の概要を掴むべく、医薬・本草分野において特に重要な文庫を蔵する次の5機関(国立公文書館[内閣文庫]、国立国会図書館[白井文庫・伊藤文庫]、武田科学振興財団杏雨書屋、内藤記念くすり博物館、西尾市岩瀬文庫)を訪れ、当該年代に属する関連資料の所在確認と通覧とに努めた。これによって主要著者およびその著作資料の大要を確認し得たものの、本草学知の変容を具体的に描出するには調査はいまだ予備段階にあるといわざるをえず、次年度以降も、さらに対象を絞りながら同様の書誌調査を継続する予定である。 この大掴みな調査と併行して、当該年代を代表する本草・博物誌資料として、稲(稲生)若水が編纂を開始し、丹羽正伯が続修・増補して完成させた一大博物事典『庶物類纂』1000巻(増補54巻)に注目し、その読解と周辺史資料の調査とを行なった。読解については若水のいまひとつの重要な仕事である『本草綱目』新校正和刻本を比較材料に用い、さらに若水を援助した加賀藩の関連史料(金沢市立玉川図書館加越能文庫)も調査することによって、稲若水の本草学について通説とは異なる新たな見解を得ることができた。得られた見解の一部は学会において口頭で発表した。これにより、もっぱら丹羽正伯による続修・増補作業にのみ博物史的価値があるとされてきた従来の『庶物類纂』評価に再考を促すと共に、本研究が射程とする江戸時代前中期の本草学知において、同書がその当代的水準を示す資料として重要な位置を占めるものであることを確認できた。次年度以降はさらにこの点を深め、若水を引き継いだ丹羽正伯についても調査研究を行なうことによって、『庶物類纂』を包括的に理解することを目指したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
書誌調査(フィールドワーク)に関しては、当初の想定よりも時間がかかってしまい、計画していた7機関のうち5機関のみでの調査となった。ただし、その調査結果から発展し、『庶物類纂』という今後の研究において軸となる資料を確認し得たことは、想定を超えた大きな収穫であった。
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今後の研究の推進方策 |
当初は国内調査の大概を初年度のうちに終え、次年度以降は国外の資料所蔵機関をも視野に入れて調査を進める計画であった。しかし、主要機関での調査をひととおり終えた結果、必要であるのは調査範囲の拡大ではなく、同機関における調査の反復と、それによる調査結果の精度の向上であると認識を改めるに至った。したがって、次年度以降も国内機関を中心に積極的にフィールドワークを続ける方策を採る。併せて、『庶物類纂』を初めとする最重要資料群の精読作業を行う。
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