当初の予定では昨年度中に力学操作と一分子イメージングの同時計測顕微鏡の構築を行い、実験条件の探索を行う予定であった。しかし、実験に用いる予定であったミオシンサンプルの発現・精製系の何れかの段階に問題が生じ、十分に活性のあるサンプルが調整できないという問題が生じた。結果的に本問題は研究室の引っ越しなどの際に、ミオシンと共発現させていたカルモジュリン(調節タンパク質)の発現に用いていたウィルスの活性が落ちてしまっていたものと判明した。 本問題を解決するために、これまでミオシンとカルモジュリンの発現ウィルスを別々に作成していたが、一つのウィルスで2種類のタンパク質を発現可能な系を導入することにより、ミオシンは取れてくるが活性がないという状況が起こらないようにすることに成功し、現在は安定に活性のあるミオシンを得ることが可能となった。 また、ウィルスを作り直す際にコンストラクトを見直し、ラペル方法を変更した。これまで、ミオシンのヘッド側(N-ter)とテイル側(C-ter)をそれぞれ特異的にラベルする際にHalo-tagとHis-tag抗体による標識方法を用いていたが、2色ラベルされる確率が低い(数パーセント)という問題があり、データ収集効率が低いことが想定されていた。当初の研究計画ではデータ取集効率を上げるために力学計測の方法としてレーザートラップ(操作性・定量性はよいが一度に一つの分子しか計測できない)ではなく、磁気トラップ(操作性・定量性は劣るが画面内の複数の分子を同時に計測できる)を用いる予定であった。しかし、ミオシン発現ウィルスを作り直す際にサンプルのコンストラクトを見直し、C-terの標識にSNAP-tagを用いたところ、2色ラベルの効率は飛躍的に上昇し、ほぼ100%の効率を得ることに成功した。このため、力学操作の方法として精度の高いレーザートラップを用いることが可能となった。 現在、新たに作成したミオシンサンプルの生化学的特性等が、これまで用いていたサンプルと同等であることを確認するための実験を行っており、確認したものに関しては良好な結果を得ている。
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