申請者は、ホモ・サピエンスがアジアやヨーロッパに拡散する際の通過点となったと考えられる南イランにおいて人類拡散の時期にあたる中期旧石器時代以降の石器インダストリーを解明し、他の地域と比較することで、石器製作技術の系譜を明らかにするとともに、「南ルート」やホモ・サピエンスの拡散モデルを考古学的に検証することを研究の目的としている。 本年度は6月23日から9月7日にかけてイラン南部ファールス州のアルセンジャン地域で同地域最大のA5-3洞窟遺跡で発掘調査及び出土石器についての資料調査を行った。当該遺跡は平成23年度に筑波大学隊によって2度の発掘調査が行われており、本年度の調査によってさらに古い層が明らかにされた。この遺跡から出土する出土する石器は大量であり、一人で整理・分析を行うことは不可能である。遺物の洗浄や注記といった整理作業は現地の労働者と日本人の調査隊員に協力をしてもらって行ったが、石器分析は年代ごと、遺構ごとに分担することが決定し、申請者は本調査で明らかになった3つの遺構から出土した石器と、修上課程で専門的に学んでいた原新石器-新石器時代の石器の分析を、国士舘大学の大沼克彦教授が本遺跡の主要な遺物となる後期旧石器時代以前の石器分析を担当することになった。本調査では新石器時代の石器は出土しないため、遺構から出た石器についてその石材を整理、実測図製作、分析を行った。実測図と分析結果は短いレポート形式で、調査団の隊長である常木晃筑波大学教授がイラン文化庁に提出する発掘報告書に収録された。 本調査では明らかに中期旧石器時代と認められるものは出土していないが、アルセンジャン地域における後期旧石器時代の石器の実態は大沼教授と申請者の分析によって確実に進展したと言える。申請者の担当した部分はわずかであるが、この分析結果は当該地域における石材選択の変遷を明らかにする足がかりとなる可能性が非常に高い。
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