研究概要 |
本研究における研究実施状況については、以下の3点にまとめられる。 1有価証券論の経済学的継受におけるUebertragung概念の変換 ゾンバルトが参照していたサヴィニーの有価証券論との比較検討した結果、両者においてUebertragung概念の理解に違いのあることがわかった。具体的には、サヴィニーが紙の所有権の「譲渡」(VerauBerung)と債権者という地位の「移譲」(Uebertragung)を厳密に分けているのに対し、ゾンバルトは「譲渡」と「移譲」の両者を区別することなく<Uebertragung>を使用している。今回の概念の転轍は法学的有価証券論の経済学的継受の歴史を辿るうえでも注目すべき事実であると考えられる。 2<商人=パラサイト>説の是非をめぐる経済学史的論争と反ユダヤ主義との関係 大塚史学の基礎にある生産優位主義がマルクスの剰余価値学説にひそむ<商人=パラサイト>説に由来していることを明らかにした後、フランクフルト大学図書館で発見した雑誌資料より、ブレンターノとゾンバルトがこれに否定的であったことを明らかにした。理論上対立していた大塚とゾンバルトがともに反ユダヤ主義的言説へと傾斜したことを考えれば、この事実は何が<生産的>なのかを問う経済学と反ユダヤ主義との関係を解明するうえで重要な手がかり与えている。 3ユダヤ法論をめぐる諸文献の発掘 フランクフルト大学図書館に所蔵されているユダヤ関連文献コレクションのうち、非電子化書籍の2点を閲覧し、そのコピーをとらせていただいた。両者とも、ゾンバルトが自身のユダヤ法起源説を補強するうえで参考にしていた稀覯文献である。 Fassel, Hirsch Baer. Das mosaische-rabbinische Civilrecht, Wien, 1852. Kohler, Joseph. Darstellung des talmudischen Rechtes, in: Lazarus Goldschmidt(hrsg.), Dierechtswissenschaftliche Sektion des Babylonischen Talmuds,1.Band, Berlin, 107, S. 1195-1252.
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