研究概要 |
今年度は,研究実施計画に示したように,落水(水田の表面水を抜き,土壌面を大気に曝露させる)後の土壌内部における土壌環境とN_2O生成・排出との関係を明らかにするための土壌カラム試験を実施した。水田土壌を充填した土壌カラムを湛水とし,100kgN/haの負荷で窒素を施肥した後に落水を開始し,土壌中N_2O濃度および02濃度の測定とクローズドチャンバー法による土壌から大気へのN_2O排出速度測定を,1日1回実施した。土壌中のN20濃度測定の際は,数百μm毎の詳細な濃度分布を,サンプルを破壊することなく把握するために,微小電極による測定を試みた。 その結果,土壌から大気へのN_2O排出速度は落水翌日から急激に上昇し,同時に土壌深さ0~20mmの範囲において約4~7mmを最大濃度とするN_2O濃度分布が形成された。また,時間の経過と共にN_2O濃度分布の最大濃度は増加し,それと共に排出速度も増加した。土壌中におけるN_2O生成位置を明らかにするために,得られたN_2O濃度分布を物質収支モデルに適用し,N_2O生成速度分布を推定した。その結果,土壌深さ約3mm~6mmにおけるN_2Oの生成が示唆された。一方,酸化還元状態の指標として測定した02濃度は,深さ2mm以降においてゼロだったことから,落水後の水田土壌におけるN_2Oの生成は土壌の極表層の無酸素領域におけるものであることが示唆された。 これまでの水田におけるN_2Oの研究は,多くが土壌環境と排出速度の調査に留まっており,落水後短期間におけるN_2O生成メカニズム(どこで,どのように生成?)を調べた研究はほとんどない。また,生成反応の推定には通常土壌と水の懸濁物が用いられるので,具体的な生成位置を調べるのは難しい。本研究では,微小電極を用いることで,土壌環境を破壊することなくN20濃度分布の変遷を明らかにし,N_2O生成のホットスポットおよびその環境を初めて明らかにした。この結果は,落水後水田土壌におけるN_2O生成に関与する微生物反応および微生物種を特定する上で重要と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の目的は,落水後土壌における土壌環境とN_2O生成の関係を明らかにすることだった。落水後土壌への微小電極の適用により,時間的にも空間的にも詳細なN_2OおよびO_2濃度の分布を得ることができた。その結果,N_2O生成が活発な深さとともにその箇所の酸化還元環境も明らかにすることができ,N_2O生成に関与する反応の特定のためのヒントを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は落水後のN_2O生成に寄与する微生物反応の特定を目的とした試験を実施する。分子生物学的な面からアプローチし,落水後の水田土壌においてどのような微生物が,どこで,いつ活発になるかを明らかにする。具体的には,落水後水田土壌を厚さ数mmで採取し,N_2O生成に関与する微生物種の推定並びに機能遺伝子の転写量を測定し,どのような微生物が存在し,どのような機能が落水後に実際にはたらいているかを推定する。また,安定同位体や反応阻害剤を用い,N_2O生成における硝化反応および脱窒反応それぞれの寄与を推量する予定である。次年度の問題としては,土壌を正確にmm単位で切断することと考えられるが,ミクロトームの利用を考えている。
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