研究課題/領域番号 |
12J02714
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
高橋 美野梨 北海道大学, スラブ研究センター, 特別研究員(PD)
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キーワード | グリーンランド / デンマーク / 北極圏戦略 / 境界問題 / A8/A5 / 気候変動 / 地理的・法的近接性 |
研究概要 |
本研究の目的は、デンマークの北極圏戦略を通して、先行研究が十分に扱い切れていない北極海域における「権力の空間分析」を行うところにある。デンマークに着目するのは、デンマークが北極海域と地理的に近接していない点で、北極圏域を構成する主体、つまり北緯45度以北に位置する主体としての権益のみを享受するが、北極海域と地理的に近接する自治領グリーンランドを介することで、北極海域を構成する主体、つまり北極海と地理的に近接する主体としての海洋権益をも享受する唯一の存在だからである。社会科学分野における北極研究には、「国家主導の環北極海地域協力等のガバナンス形成をめぐる動き」を分析し、それを「国家・地域間合意・規範が地域の政治関係に影響を与え得る」ものとして捉えるリベラリストの系譜と国益の錯綜する場として北極海域を捉えるリアリストの系譜の二つが存在する。そこでは、北極圏との地理的近接性を有する北緯45度以北の8ヵ国=A8(アメリカ、カナダ、デンマーク/グリーンランド、ノルウェー、ロシア、フィンランド、アイスランド、スウェーデン)が分析主体として位置付けられてきた。しかし、近年の気候変動に伴う海氷の融解によって北極は、資源・航路開発を行うに十分な環境を有する海域へと変質し、UNCLOS第76、77条に基づく北極海域との地理的近接性を有する5ヵ国=A5(アメリカ、カナダ、デンマーク/グリーンランド、ノルウェー、ロシア)という、より局地的な視座が実際の外交の場で意味を持ち得るようになった。当該年度は、北極海域の地理的・法的状況を明らかにした上で、北極海域と地理的に近接していないA8であるにもかかわらず、法的に近接していることによってA5としての特権を享受する唯一の国家としてのデンマークに焦点をあて、そこで行使される政治的影響力について考察し、北極の境界未確定問題の実相を明らかにする作業を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
北極海域における境界未画定問題をデンマークの北極圏戦略を基点に分析する試みは、論文、学会発表を通して、またアウトリーチ活動の中でコンスタントにアウトプットできた点で、おおむね順調に進展した。現在は、先行研究との対比の中から新たな知見を生み出す過程にあるが、その中間報告をできた点で順調に進展したと考えている。それを「当初の予想を超えて進展した」としたのは、本研究課題をまとめるための一歩として、当課題の内容を2013年12月に刊行した単著に収めることができたためである(拙著『自己決定権をめぐる政治学』明石書店)。一章にまとめるにあたり、これまで集めた資料を精査し、考えを整理できたことは、次年度(最終年度)に向けた足がかりとして意味を持つものとなった。
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今後の研究の推進方策 |
社会科学分野における北極研究の現状を把握するための資料収集や現地調査は、引き続き行っていきたい。とりわけ、本研究課題の中心的な分析主体であるグリーンランドでは、2014年3月の国連事務総長・公式訪問やロンドンマイニング、シェル、シェブロン、グリーンランド石油開発(日本の官民合同会社)の採掘権獲得等、政治経済分野で新たな動きが目立っている。これらの動きをオンタイムで把握しておくことは、本研究課題が現在進行形の問題である以上必要なことであろう。その上で、今後は、当初の計画に即して「北極海域の空間分析」をテーマとした論文執筆や学会発表はもちろんのこと、それらを一書にまとめるための執筆作業を中心に進めていきたい。また、既に決定している日本国際政治学会や境界問題を扱う学会の世界大会(ABS)などでの研究発表を含め、学会発表も積極的に行っていきたい。さらに、国立民族学博物館の企画展として予定されている「未知なる大地」展への協力を含め、アウトリーチ活動も継続していきたい。
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