研究課題
血管性認知症は、脳血管障害を原因とした慢性脳虚血による脳白質病変の進行が一因である。血管内皮機能障害の進展にASK1が重要な鍵分子となることを報告してきた我々は、慢性脳虚血を原因とした認知機能障害進展へのASK1分子の関与について検討を行っている。マウスの両側総頚動脈にマイクロコイルを巻きつけ、主に脳白質部を慢性脳低還流・虚血状態にすることで認知機能障害が生じる(BCAS術)。コントロールのC57BL/6J野生型マウスでは慢性脳虚血による認知機能障害、脳白質病変、グリア細胞の活性化、脳梁の白質部における血管内皮細胞で炎症系サイトカイン(TNFα)の活性化が認められたが、いずれの病的変化もASKIノックアウト(ASK1-/-)マウスでは認められなかった。野生型マウスの脳ではASK1と下流のシグナル分子であるp38が虚血時間に応じて活性化し、ASK1-/-マウスではp38の活性化が持続的に抑制されていた。P38は血液脳関門の構成ユニットの一つである脳血管内皮細胞で活性化していた。野生型マウスではBCAS術により接着因子の発現低下に伴う血液脳関門の破綻が認められたが、ASK1-/-マウスやp38阻害剤投与下では認められなかった。p38阻害剤を長期投与した場合、BCAS術後に野生型マウスで生じる認知機能障害、白質病変やグリア細胞の活性化はASK1-/-マウスと同様にいずれも有意に減弱していた。以上の結果から、慢性脳虚血による脳血管内皮細胞におけるASK1からp38へのシグナル伝達に端を発した血管内皮細胞間の接着因子減少による血液脳関門破綻が認知機能障害へ関連している可能性があることが分かってきた。また、心血管患者における認知機能障害の病態を解明するため、患者データを収集し、解析しているが、認知機能と心肺機能とに強い関連性があることも分かってきた。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究実施計画に沿って実験を進める事ができたことで、研究実績の概要に記したように、ASK1とその下流のP38が脳虚血早期の血液脳関門の破綻に深く関わっていることがわかってきた。
今後マウスから単離した脳血管内皮培養細胞を用いて、細胞間接着因子とASK1分子との関連性についてさらなる分子メカニズムを検証していくとともに、ASK1分子を標的とした治療戦略の開発についても検討する。
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