研究概要 |
採用一年目の昨年度私はアメリカのメリーランド大学でPartha Lahiri教授の下,以下3つの小地域推定問題に関する研究に取り組み解決している. まず,現在現場で推奨されている,各地域の特性値(平均値等)に対する有効な経験的最良線形不偏予測量EBLUPの現実面の問題を指摘した.その問題とは,EBLUPで用いられる地域差異を表す変量効果の分散が0に推定されてしまうことが多い事である.このことにより,地域差が大きいときに対しても地域の差が考慮されないという不適切な結果を招くことがある.この問題に対して,尤度関数にある調整項を付け加えた方法によって分散推定値がゼロになることを防ぐ推定法がすでに提案されている.しかしながら,これらの推定量を代入したEBLUPの精度は小地域において従来のEBLUPと比較して悪くなることが指摘されており,実用的でない.そこで私は,特徴的な関数を用いた調整項を提案した.この調整項により,分散が0になることを防ぎかつ,従来のEBLUPの精度を保つことに成功している. 次に,各地域の平均に対する信頼区間の構成に対して,経験的最良線形不偏予測量を利用する方法が有効であることが知られている.しかしながら,一般に被覆確率が正確ではないため,漸近的な補正が行われている.実用面では,経験的に精度が高いとされているBootstrap法の使用が推奨されているが,多大な反復計算を使用するため一般に計算量が多い.しかしながら,発展途上国等では,高性能な計算機の導入が困難になりやすいため,より計算量が少なく扱いやすい手法が望まれていることを在米中に知った.そして,精度がBootstrap法と同等で,計算量がより少なくユーザーにとって扱いやすい信頼区間を調整尤度関数を利用しての構成することに成功した. 3つ目に,現在EBLUPを用いた信頼区間はいくつか提案されており,それらは地域数を大きくすると,理論的に被覆確率と区間幅が同程度の精度となる.しかしながら,標本が十分に取れない小地域やそもそもの地域数が十分に多くない場合,これらの精度間に違いが生じることが多い.さらに現在推奨されているBootstrap法を用いた信頼区間も2種類あり,ユーザーとしては事前に推奨法を絞っておきたい.昨年度,EBLUPで用いられる,地域の効果の分散の推定法の中で推奨されているREML推定法を適用した際の信頼区間の数値比較研究を,コンピュータを用いて行った.その結果,小地域推定問題において,推奨できる一種類のBootstrap法を数値比較によって導いた.また,当初の研究目的の一つであったEBLUPのMSE推定量の改良についても,現在海外の研究者とともに共同研究を進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画の中にあった,在米研究における経験的最良線形不偏予測量のMSE推定量と信頼区間構成に関する研究の成果が出ているためである.MSE推定量については,現在共同研究途中であるが,アメリカの受け入れ研究者からの採用者自身のアイデアが評価されている.それだけではなく,昨年度は,従来現場で用いられている経験的最良線形不偏予測量の問題点を指摘し,それに関する改良も行っている.この研究は国内学会の2012年統計連合大会のコンペティションセッションにおいて優秀報告賞を受賞しており,客観的にも評価を受けている.
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