研究概要 |
「出生」は哺乳類の一生で最も劇的な環境変化を伴うが、出生の脳発生における生理的機能は不明な点が多い。出生により発現制御される遺伝子スクリーニングを行ったところ、大脳皮質神経細胞における転写因子Sox11の発現量が出生を契機として減少することを見出している。そこで本研究課題では、出生→Sox11発現変化→神経細胞成熟というカスケードがあるとの仮説を立て、検討する。 本年度はSox11の神経細胞成熟における機能解析を中心に行った。我々は、出生後のSox11発現低下が神経細胞の成熟を制御している可能性を見出していた。そこで、Sox11発現低下の神経細胞成熟における機能的重要性を、形態・分子レベルで詳細に検討した。具体的には、子宮内電気穿孔法を用いて、大脳皮質神経細胞へのSox11の強制発現によるSox11の発現維持を行い、以下の結果を得た。 1:形態的解析 GFPを共導入することで神経細胞の形態を可視化した結果、Sox11強制発現神経細胞では生後の大脳皮質神経細胞で進行する形態的な成熟、即ち、細胞体肥大・樹状突起複雑化・軸索分枝形成・スパイン形成、の何れもが著しく抑制されていた。 2:分子的解析 神経細胞成熟・未成熟マーカーを用いて神経細胞成熟を検討した結果、Sox11強制発現神経細胞では、成熟マーカーであるNeuNの発現増加が抑制され、一方で未成熟マーカーのTuj1, DCXの発現が維持されていた。 以上、形態・分子レベルの解析結果は、生後のSox11発現低下が大脳皮質神経細胞の成熟に必要であることを示唆している。
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