研究概要 |
私達の腎臓は、血液からの老廃物や余分な水分のろ過及び排出(尿)などを行う重要な器官である。腎臓の尿細管は、原尿の通り道となる管(チューブ)状の組織で、原尿成分から水分や無機塩類などの体に必要な成分を再吸収している。腎臓尿細管は大きさの揃った上皮細胞が互いに密着して成り立っており、体の内と外を仕切るバリアとしての役割も果たしている。腎臓尿細管上皮細胞の破綻は腎臓機能の障害(すなわち、腎疾患から人工透析の必要性)に直結することから、腎臓尿細管上皮細胞の形態形成やバリア機能の獲得機構の解明は非常に重要な研究課題と考えられるが、未だその詳細は十分に解明されていない。 本研究では、イヌの腎臓尿細管上皮細胞(Madin-Darby canine kidney II cell : MDCKII細胞)を用いて、報告者の研究室で同定された膜輸送に関わるRab27の結合分子シナプトタグミン様蛋白質(synaptotagmin-like protein 2-a : Slp2-a)の機能を解析することで、腎臓尿細管上皮細胞の形態形成やバリア機能の獲得機構を解明することを目的としている。報告者はこれまでに、1. Slp2-aは上皮細胞の管腔形成に関与していること(Nat Call Biol, 14:838-849, 2012)、2. 上皮細胞のバリア機能の獲得に関与していること(Mol Biol Cell, 23:3229-3239, 2012)を明らかにしている。今回、3. Slp2-aは上皮細胞の大きさ調節をしているという新たな機能を明らかにした(J Cell Sci, 127:557-570, 2014)。本研究結果は、未だ治療方法のない難病である「常染色体優性多発性嚢胞腎症に繋がる可能性のあるメカニズムを突き止めたことで、新聞にも取り上げられている(日刊工業新聞・河北新聞・QLife Pro医療ニュース)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究代表者はこれまでに、腎臓尿細管上皮細胞におけるSlp2-aの機能として、①上皮細胞の管腔形成への関与、②上皮細胞のバリア機能の獲得機構への関与を解明し、今回、③上皮細胞の大きさ調節をしているという新たな機能を明らかにしました。本研究結果は、未だ治療方法のない難病である「常染色体優性多発性嚢胞腎症」の治療に繋がる可能性のあるメカニズムを突き止めたことで、新聞にも取り上げられています。研究代表者は以上の研究成果を筆頭著者として原著論文にまとめるだけではなく、共同研究者として膵臓β細胞からのインスリン分泌機構のメカニズムの解明(J Biol Chem, 288 : 25851-25864, 2013 ; Diabetelogia, 56 : 2609-2618, 2013)にも携わっていることから、採用2年目も期待以上の進展があったと評価できます。
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