研究課題/領域番号 |
12J02817
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
日比 大治郎 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 多環芳香族化合物 / 一重項ビラジカル性 / ゼトレン / ジインデノピレン |
研究概要 |
一重項ビラジカル性を有する化合物は特徴的な電子状態とそれに起因する特異な物性を示すことから興味が持たれ、近年盛んに研究されている。ビラジカル性の大きさはビラジカル因子「y」で表され、開殻性が高くなるほど大きな「y」をとる。中程度のビラジカル性を有する化合物は高い二光子吸収特性を示すこと、一重項ビラジカル性を有する化合物に電子供与性基と求引性基を非対称に導入することによりHOMO-LUMO遷移に由来する二光子吸収特性が向上することが理論的に予測されているが、そのような化合物はこれまでに合成例がなく、光学的性質に興味が持たれる。 これまでに我々は中程度のビラジカル性を有する化合物としてゼトレン(y=0.41)に注目し、速度論的に安定化された7,14-フェニルエチニルゼトレン誘導体laの効率的な合成法を開発し基本的な物性を明らかにしてきた。今回、フェニル基上にアミノ基を二つ導入した1b、ニトロ基を導入した1cおよびアミノ基とニトロ基を一つずつ導入した1dを新たに合成し、1a-dの二光子吸収特性を調査した。無置換体1aは625nmにおいて1100GMの吸収を示した。これは比較化合物として測定した閉殻系のルブレンと比較すると15倍以上大きな値であった。ゼトレンの一重項ビラジカル性に起因して大きな二光子吸収断面積を示したと考えられる。laに比べ電子供与性、求引性置換基を導入した1c-dの二光子吸収特性は全体的に向上し、特に第二励起状態への遷移に由来するバンドの二光子吸収断面積の増幅率が高かった。また、期待したとおりHOMO-LUMO遷移に由来するバンドにおいては1dが最も高い二光子吸収断面積を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在ドナー/アクセプター性置換基を有するゼトレン誘導体の合成について必要な実験は全て終わり、現在論文にまとめている。近々投稿予定である。
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今後の研究の推進方策 |
ゼトレンを拡張したヘプタゼトレン誘導体の合成に着手したが、ヘプタゼトレンとオクタゼトレンの合成と物性に関する報告が先にWuらにより発表されたため中止した。それにかわり、ヘプタゼトレンと同程度の一重項ビラジカル性を有し、より大きなπ共役系を有する二種類のジインデノピレン誘導体の合成に着手した。合成は、ビス(メシチルエチニル)ナフタレンの環化反応によりインデノフェナレンが形成される反応を参考に、テトラキス(メシチルエチニル)ナフタレンの環化により行ない、低収率ながらジインデノピレンを単離することに成功した。今後収率の向上や置換基の導入、物性調査を行う。
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