研究課題/領域番号 |
12J02838
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
掛川 貴弘 筑波大学, 大学院・数理物質科学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | 再生医療 / バイオマテリアル / 細胞脱離 / 細胞シート / 細胞パターニング |
研究概要 |
近年、iPS細胞に代表される万能細胞などから生体外で組織を構築し、移植することで欠損した臓器や組織の治療を行う、再生医療と呼ばれる新たな治療技術が注目されている。この治療法の実現には、シャーレ上で生体組織を構築し、さらにその組織を非侵襲的に回収する技術が必要である。 本研究では、電気化学的原理に基づき、電位印加によって培養表面から素早く細胞を回収する技術の確立を目標としている。この原理は、金-チオール結合を利用して金電極表面に単分子層を形成し、これを介して接着させた細胞を、金-チオール結合を電気的に切断することで、脱離させるものである。 今年度は、単分子層として使用する、自己組織化オリゴペプチドの設計および評価を行った。 具体的には、リジン(K)や、グルタミン酸(E)のような、プラス、マイナスにチャージしたアミノ酸を交互に配置したオリゴペプチド2種類を設計した。細胞接着配列を持たない細胞非接着性オリゴペプチド(配列:CGGGKEKEKEK)は、末端のシステイン(C)を介して金表面に自発的に結合し、スペーサーとして3つのグリシン(G)を配置した。また、隣接するペプチド間においてリジン(K、+電荷)およびグルタミン酸(E、-電荷)の静電的な相互作用によって自己組織化するように設計した。これにより、タンパク質の非特異吸着抑制層を形成した。また、末端に細胞接着配列RGDを付与した細胞接着性オリゴペプチドも加えることで、タンパク質の非特異吸着を抑制しつつ細胞が接着できる表面を設計した。このような表面での細胞脱離を評価したところ、電位印加2分後には全ての細胞を脱離可能であり、更に、細胞シートも非侵襲的にハイドロゲルへと転写可能であった。 この成果は、TISSUE ENGIEERING誌に掲載され、また再生医療分野における世界最大級の学会であるTERMIS World CongressにおいてもTERMIS Poster Finalist Awardを受賞した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
自己組織化オリゴペプチドを設計し、2分間での細胞脱離、更には細胞パターン、細胞シートの素早いハイドロゲルへの転写に成功した。この結果は本手法によって細胞を、細胞同士の結合を保ったまま回収可能であることを示すものであり、再生医療技術への応用が期待されるものである。
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今後の研究の推進方策 |
細胞脱離時間は、細胞シートを多数積層化する際、プロセス全体の所要時間に影響を及ぼすことから、重要である。 現在2分間での細胞脱離に成功しているが、オリゴペプチド分子のみであれば数秒で脱離することが、電気化学的な解析によりわかっている。つまり、原理的には細胞も秒単位で脱離できる可能性が残されている。細胞脱離に2分間を要する原因の一つとして、タンパク質の非特異吸着の存在が考えられる。既に上述の細胞非接着性オリゴペプチドによって約90%の非特異吸着抑制効果が得られているものの、両性イオンペプチドによって99%の抑制効果を報告した例がある。そこで、更なるタンパク質の非特異吸着抑制効果を持つ自己組織化オリゴペプチドを分子動力学計算と実験を組み合わせて設計し、秒単位での細胞脱離を目指す。
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