研究概要 |
平成25年度は博士後期課程3年であり、以下の研究を進め、博士論文を完成させた。なお本研究で得られたミトコンドリアDNA (mtDNA)の塩基配列は、データベース(DDBJ)に登録した。 【サワラ】マイクロサテライトDNA (msDNA) 5遺伝子座1,654個体及びmtDNA調節領域の塩基配列861個体のデータを解析した。日本周辺のサワラは1つの大きなgene poolを形成している。2001年・2002年放流群の遺伝的多様性は野生魚の約54%に低下しており、2010年の瀬戸内海における遺伝的混合率は7.8-14.5%と推定された。瀬戸内海では、長年の放流により人工種苗の遺伝子にほぼ置き換わっていると考えられたが、遺伝的多様性は放流前後で変化していない。これは、毎年漁獲された野生親魚を用いて種苗生産しているためと考えられ、シミュレーションもこれを支持した。野生魚の資源量は増加しており、集団のフィットネス低下の兆候は見られなかった。 【マダイ】msDNA5遺伝子座の遺伝子型642個体及びmtDNA調節領域の塩基配列493個体を決定し、解析を行った。遺伝的多様性は、養殖魚が最も低く、放流魚も野生魚より低かった。2004年の鹿児島湾奥における放流魚の遺伝的混合率は、mtDNAとmsDNAでそれぞれ39.6%及び42.3%と推定されたが、2010年には16.1%及び19.9%と半分以下になっていた。一方, 宇和海における養殖魚の遺伝的混合率は、4.8%及び5.7%と推定された。近年、鹿児島湾では、放流効果は小さくなっており、湾外からの野生魚の移入と相まって、種苗放流の遺伝的影響が修復されつつあると考えられた。本研究により、マダイ養殖の遺伝的影響は放流よりも小さいこと、及び、開放された集団では人工種苗と野生魚の置き換えは双方向に起きることが明らかになった。
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