研究実績の概要 |
本年度は過去2年間に施行した実験結果に基づき、以下の実験を実施した。 (1) OR7C1のシグナル伝達の解析:1年次実施した結果から、OR7C1の直下のシグナルが、アデニル酸シクラーゼ(AC)の活性化もしくはホスホリパーゼC(PLC)の活性化である可能性が高いと考えられた。さらに、PLC阻害剤であるU-73122で処理した場合SOX2の発現は低下したことから、PLCを経由するシグナル伝達経路が関わっている可能性が想定された。その下流の動きを探るため、OR7C1過剰発現株を用いてリン酸化aktの発現を確認した。施行したすべての細胞株でp-aktの発現が上昇していた。 (2)OR7C1の上皮間葉転換への影響:OR7C1が癌幹細胞の維持に重要な役割を果たすことは1年次2年次の実験で明らかになった。OR7C1が癌の転移にも影響するのか検討した。癌の転移の第一段階として、上皮間葉転換(EMT)は重要である。EMTの形質を判断する材料として、大腸癌細胞株SW480のOR7C1過剰発現株とコントロール細胞で間葉系マーカーであるSnail family zinc finger 1 (SNAL1), Cadherin (CDH1, 2), Vimentin (VIM), matrix metalloproteinase-2 (MMP-2) をRT-PCRで確認した。その結果、OR7C1過剰発現株では、VimentinおよびMMP-2の発現が上昇していることが確認された。この結果は、SW480-OR7C1過剰発現株を免疫不全マウスに異所性接種して得られた腫瘍の免疫染色の結果からも裏付けられた。また、in vitroでの浸潤能を専用チャンバー(BD BioCoat Matrigel Invasion Chamber)を用いて検討したところ、有意差をもってOR7C1過剰発現株で浸潤能が高まっていた。
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