研究概要 |
本年度ラットを用いて常在細菌の制御機構を解明するための一環として得られた研究成果は以下の通りである。 1.消化管全長における分泌型Toll-like receptor (TLR)-2,-4および-9の分泌部位を特定し,公表した(J. Vet. Med. Sci.)。 2.上行結腸における常在細菌の優先的な定着部位が腸間膜付着部の腸表面上皮上であることを明らかにするとともに,同部位におけるTLRの発現が非常に弱いこと,さらに同部位では腸陰窩内に常在細菌が侵入すると,腸陰窩内における上皮細胞の細胞増殖が活性化される可能性を明らかにし,公表した(J. Vet. Med. Sci.)。 3.十二指腸の絨毛円柱上皮細胞では,常在細菌の定着を認識していると考えられるTLR-2がMyeloid differentiation factor-2と複合体を形成している可能性を明らかにした。 4.小腸では常在細菌が腸絨毛の表面で増殖すると,腸陰窩のパネート細胞から一過的に分泌が惹起され,これに伴ってパネート細胞がアポトーシスを発現することを明らかにした。 5.小腸の生体防御機構に関する基礎的な研究として,絨毛円柱上皮細胞がIgGのFc受容体を介して大型粒子をpersoptionする可能性を明らかにし,公表した(J. Vet. Med. Sci.)。また空腸の腸絨毛で産生された乳ビ球が,毛細血管内皮に発現したVLDL受容体を介して血管内へと直接取り込まれる可能性を明らかにした。 6.消化管における生体防御に関する基礎的な研究として,肝臓における補体C3およびC4の産生部位が異なることおよびその輸送経路について明らかにするとともに,消化管全長における分泌部位を特定した。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究では,申請当初計画していたin situ hybridization(ISH)法を用いて消化管粘膜上皮における膜型TLRの発現部位の特定を試みたが,特定することができなかったため,これに関してはISH法の手法改善を含めて今後も引き続き検討を行う。加えて,本年度の研究で重点的に研究対象とした上行結腸を含め,小腸および大腸の粘膜上皮上における常在細菌の増殖と細胞動態の制御,アポトーシスの発現・調節因子の変化および粘液分泌の制御の関係についても検討し,粘膜上皮における膜型TLRの発現の意義について生体防御の観点から明らかにする予定である。
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