研究概要 |
太陽電池の高効率化へのアプローチの一つとして中間バンド型太陽電池が挙げられる.中間バンド型太陽電池では,その吸収層におけるホストのバンドギャップ内に新たな準位を導入することで,広い波長域の光を吸収することができ,変換効率の飛躍的な向上が期待できる.本研究では,中間バンド型太陽電池の一つとして,遷移金属元素のd軌道に由来する準位を利用したものを吸収層とする,dバンド型太陽電池に注目している. 初年度においては,PLD法を用いて遷移金属元素を添加したZnO薄膜の作製し,その電気・光学特性の評価を行った.PLD法での成膜においては,基板温度,酸素分圧,レーザーエネルギー等の多数の条件を設定する.初めに,遷移金属添加ZnO薄膜の成膜に適した条件を探索した.結果,NiおよびCoを添加したZnOについて高い結晶性を有する単相薄膜が得られた.Al_2O_3(0001)基板,MgO(100)基板の二種類の基板上にエピタキシャル成長させることで,それぞれウルツ鉱型構造,岩塩型構造という異なる結晶構造を広い組成範囲で作り分けることに成功した.それぞれの構造中ではカチオンの周囲の酸素の配位数がそれぞれ4配位,6配位と異なり,配位環境の違いによる中間バンド形成の変化が期待できる.作製した薄膜については光学特性の評価を行った.ウルツ鉱型構造を有するCo添加ZnO薄膜について,バンドギャップ3.4eVよりも小さいエネルギーに対応する波長域において特徴的な吸収係数(α)の増大が見られた.また,吸収スペクトルの形状から,薄膜中のCoが二価の価数で存在することが示唆された.照射する光の波長を変化させ,光照射時の電気伝導度を測定したところ,吸収係数の増大が見られた波長域の光照射により光電導度が生じるという結果が得られた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度においてTi~Niの3d遷移金属添加を添加した,高い結晶性を有するZnO薄膜を作製する予定であった.実際に広い組成域で高い結晶性が得られたのはNiおよびCo添加ZnOの試料に限られる.これは成膜実験と並行して,次年度に計画していたX線分光スペクトル解析に向けて,計算機を用いた電子状態の理論計算を行ってきたためである.これまでに得られた理論計算のノウハウから,次年度以降のX線分光スペクトルの理論計算が予定以上に進展することが期待できる.
|
今後の研究の推進方策 |
PLD法による成膜時の酸素分圧や成膜後のアニールによって遷移金属元素の価数を制御した薄膜を作製し,そのバンドギャップや吸収係数といった物性の変化を調べる.また,吸収係数に対する,遷移金属元素の局所的な配位環境・電子状態の寄与を評価するために,x線光電子分光法およびX線吸収分光法による測定と,内殻空孔効果を考慮した第一原理計算による理論スペクトルの算出を行い,両者を比較し解析を行う.
|