研究課題/領域番号 |
12J03022
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
森 崇理 長崎大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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キーワード | ニッケル(Ni) / 有機亜鉛 / 有機アルミニウム / オキサニッケラサイクル / アザニッケラサイクル / ニッケラシクロペンテン / 二酸化炭素 / 多成分連結反応 |
研究概要 |
本研究の目的の一つは、アルキンを求核種とする新たな触媒反応の開発及び二酸化炭素等の小分子炭素化合物を極めて効率よく取り込みながらオキサニッケラサイクル活性種を発生させ触媒的合成反応に応用する手法を確立することである。そこで、当該年度では不飽和炭化水素化合物の中で最も安定かつ不活性な分子の一つである二酸化炭素を用いてオキサニッケラサイクルを形成する検討を行った。2分子の共役ジエンから生じるニッケラサイクル(ピス-π-アリルニッケル)と二酸化炭素、アルキン、Me_2Znによるタンデム反応が常温、常圧で効率よく進行する点が興味深い。本反応において、優先的にビス-π-アリルニッケルが形成されることを利用して、求核性の高いC3位部位に対して選択的に二酸化炭素を挿入することに成功した。本論文において、著者は共同研究者として計画/データ解析等を担当した。また、本研究のもう一つの大きな目的は、遷移金属触媒を必要としない二酸化炭素を含む親電子剤とアルキンや共役ジエンによる炭素-炭素結合形成を開発し、C1化学の新展開を目指すものである。ラジカル種を発生しやすいtert-BuZnBrのようなRieke試薬と共役ジエン及びアルデヒドなどの親電子剤を反応すると、それぞれ1分子ずつ位置及び立体選択的に付加する3成分連結反応が進行し、ホモアリルアルコールが得られることを見出した。本反応はtert-BuZnBrの共役ジエンに対する1,4-付加によって生じるアリル亜鉛を活性種としており、遷移金属触媒を必要としない。また、著者らの研究室で以前報告しているニッケル触媒を用いた反応と比べ、反応挙動が劇的に異なり非常に興味深い。さらに、親電子剤として二酸化炭素を常温・常圧で用いることが可能であり、対応する不飽和カルボン酸が高収率で得られる。この知見は今後のCl化学の新展開が期待されるものである。本論文において、著者は計画/データ解析などを担当した。ここまでの研究実施状況としては、年次計画2年目及び3年目の研究計画は当初の予定より早く達成できた。二酸化炭素を炭素源として効率的に取り込む反応の開発は学術的に興味深いだけでなく、エネルギー資源及び環境の観点からも研究意義は高く、社会、産業界に対する波及効果も極めて高い。しかしながら、未だに二酸化炭素を唯一の炭素源としたカップリング反応は開発されていない。本研究の究極の目的は、二酸化炭素を唯一の炭素源としたカップリング反応の開発であり、当該年度に得られた研究成果等はこれらの目的を達成するための重要な知見となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は【アルキンを求核種とする新たな触媒反応の開発及び二酸化炭素等の小分子炭素化合物を極めて効率よく取り込みながらオキサニッケラサイクル活性種を発生させ触媒的合成反応に応用する手法を確立する】である。当初の計画である二酸化炭素を取り込みながらオキサニッケラサイクル活性種を形成する触媒反応の開発に成功し、国際的学術誌にて本年度発表した。また、アザニッケラサイクルを介する新たな還元的カップリング反応の開発にも成功し報告した。このように、研究の目的を着実に達成した上、計画以上の成果を挙げた。
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今後の研究の推進方策 |
現代の有機化学は、出来る限り自然環境に反応条件で、資源とエネルギー消費を最小限におさえつつ、原子効率良く、しかも必要な化合物のみを合成し、経済的で無害な洗練された合成方法の開発が求められる。著者は、これまで物質変換過程の効率化を基盤として、ニッケル触媒によるオキサニッケラサイクルを介するアルキンを求核種とした炭素-炭素結合形成の効率的かっ斬新な反応を開発してきた。これらの研究を遂行して行く過程で、パラジウム/ニッケル触媒がC-H結合切断を介する極めて原子効率の高い酸化反応を起こすことを見出した。通常、酸化の過程で副生する水素は系外へ放出されるが、本手法では、副生する水素によって同一系中における還元反応へ利用可能であることを明らかにした。つまり酸化・還元の相反する反応を同一系中で完全に制御できる。当初の研究課題に加え、本反応についても追究し、更なる発展を目指す。
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