本課題は、培養技術を駆使し、深海底熱水活動域に生息する特異な微生物の分離、生態学的研究、および地球環境修復への応用展開を目的としている。 2014年度は、熱水活動域に棲息するN2O還元細菌に近縁な新規微生物の性状解析を行い、新種として提唱した。具体的には、昨年度分離培養に成功した新規化学合成独立栄養細菌の性状を決定し、深海熱水活動域由来の中温性細菌で報告例のない水素酸化-チオ硫酸還元能を有し、近縁種の中では稀な絶対嫌気性細菌であることを明らかにした。本分離株をSulfurovum aggregansとして提唱し、微生物系統分類を扱う国際雑誌IJSEMにて発表した。 また、N2O還元細菌に近縁な化学合成独立栄養細菌集団の種内多様性の解明に向けて、新たな微生物分離株の遺伝子情報を加え、ゲノムレベルの遺伝的多様性解析に成功した。具体的には、昨年度得られた新規沖縄トラフ熱水サイト由来の分離株のもつ11個の遺伝子塩基配列を決定し、これらの分離株を含め、4海域15フィールド(サイト)由来の微生物分離株の種内遺伝的多様性の比較を可能とした。本遺伝子解析から、海域に固有の遺伝的特徴を有する微生物集団が存在することを突き止めた。 さらに、米国Woods Hole Oceanographic Institutionが実施した東太平洋海膨熱水活動域の調査航海に参加し、25種類に及ぶ熱水活動域由来の試料を採取した。これまで本海域由来の分離株が持つ遺伝子情報を上記の遺伝的多様性解析に考慮できておらず、本熱水性試料は全球規模の微生物遺伝的多様性の解明に向けて極めて重要である。これらの熱水性試料から、既に12株以上の分離株を取得しており、今後、新たな分離株を用いてN2O還元能の評価および微生物集団の遺伝的多様性解析に取り組む予定である。
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