(1) コオロギにおける新規遺伝子導入法の確立:組替え酵素(φC31 integrase)を用いた遺伝子導入コオロギ作成法の確立を進めた。昨年度選抜した組替え標的配列をもつ遺伝子導入系統を用いて、遺伝子導入法の効率の評価を行った。本年度は組替え酵素を受精卵内で発現させる発現ベクターを用いた遺伝子導入実験を立ち上げる予定であった。しかし飼育しているコオロギにウイルス感染が蔓延し、遺伝子導入法の効率評価実験を遂行するために十分な個体を確保することが困難となった。ウイルス感染に対処したのちに効率評価実験を再開しているが、本研究課題の実施期間内に結果を得ることはできなかった。 (2) 神経遺伝学実験ツールの開発:コオロギ脳内生体アミン系神経回路網の機能操作のため、オクトパミン・チラミン・ドーパミン・セロトニンの合成酵素群の転写調節領域の配列を決定した。さらに、本年度は闘争行動遂行中に賦活化する神経細胞の同定のための神経遺伝学実験ツールを開発する目的で、コオロギ脳内において神経細胞の賦活化に伴い発現が誘導される初期応答遺伝子に着目した研究を遂行した。コオロギ脳内で発現する初期応答遺伝子を同定し、その転写調節領域の配列を決定した。さらに初期応答遺伝子の転写調節領域の下流で EYFPを発現する遺伝子導入系統の作成を進めた。 (3) コオロギ脳生体アミン系神経回路の解剖学的解析:昨年度作成したチラミン合成酵素 TDC2 に対する特異的抗体を用いて、コオロギ脳内チラミン・オクトパミン作動性神経回路網のマッピングを行った。オクトパミンの前駆体であるチラミンは昆虫脳で神経伝達物質としても利用される。TDC2 に対する特異的抗体と抗チラミン抗体・抗オクトパミン抗体との二重染色によって、コオロギ脳内のチラミン作動性神経細胞の全てで TDC2 が検出されること、コオロギ脳内のオクトパミン作動性神経細胞は TDC2 免疫要請細胞に含まれることが明らかになった。
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