相同配列間で起こる組換えは、ゲノム再編成を引き起こし発達障害疾患や癌など多種多様の疾患原因となるにも関わらず、この組換え制御機構についてはほとんど分かっていない。本研究では、真核生物のゲノム中に多く存在するリピート配列間での組換え制御機構を理解するため、出芽酵母のリピート配列であるリボソームRNA遺伝子(rDNA)のコピー数維持機構の解明を目標とした。そのために、野生型と比べて異常なrDNAコピー数変動を示す変異体を網羅的に探索した結果、複製装置の構成因子をコードするCTF4遺伝子変異体においてrDNAの過剰増幅が起きていることが判明した。rDNAではDNA複製時にプログラムされた複製阻害が起こることが知られているが、ctf4変異体でのrDNA過剰増幅はこの複製阻害への応答欠損によって起こることも前年度までの研究から明らかとなった。 rDNA領域内で複製阻害が起こると、DNA損傷の中で最も重篤であるDNA二重鎖切断(DSB)が生じる。当該年度の研究では、Ctf4タンパク質がこのDSB形成及び修復過程で機能するかどうかを調べることを目的し、以下の成果を得ることができた。(1)細胞同調及びサザンブロット法によって、複製阻害の結果生じるDSB形成及び修復キネティクスを定量的に解析できる実験系を確立した。(2)その結果、ctf4変異体では野生型よりも高頻度でDSBが生じるだけでなく、DSB修復過程で生じる中間体の可能性が高いDNA分子が異常なレベルで蓄積していることが明らかとなった。先行研究からCtf4タンパク質は複製装置の一因として効率的なゲノム複製を促進すると考えられていたが、本研究では、Ctf4タンパク質がrDNA配列の過剰増幅を抑制するために必要であるだけでなく、rDNA内での複製阻害に正しく応答しDSB形成を抑制する重要な働きを担うことを明らかにすることができた。
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