本研究は多様な環境に適応した日本産キク属植物を用い、フラボノイドと環境適応の関係を明らかにすることを目的としている。研究は(1)フラボノイドを指標とした化学分類および局在箇所の観察による日本産キク属植物のフラボノイドの特徴の特定、(2)フラボノイド特性の異なる植物を用いた栽培実験を行い、物質と生長量の変異を調査することでフラボノイドによるストレス応答機構を解明、そして(3)実際にストレス環境下に適応している自生地の植物に含まれる物質の変異を比較する、という3つの過程に大別しておこなうことを計画している。本年度はこのうち、主に(1)と(2)について研究をおこなった。 (1)については、これまでフラボノイドの組成が明らかにされていないチシマコハマギクの成分を定性し、細胞内と表皮の上(細胞外)に蓄積するフラボノイドを8成分明らかにした。この種はコハマギクと同種内の亜種とする見解が存在しているが、細胞内フラボノイドの特性が明らかに異なるため、両種は別種である事が本研究から示唆された。(2)については海岸と山地のような異なる場所に生育する日本産キク属植物4種を供試し、それぞれの生育地で考えられるストレス(塩、乾燥、紫外線)を施し、形態およびフラボノイドの変動を対照区と比較した。この結果、フラボノイドについては、いずれの種も各処理による質的な変化は認められなかった。しかしながら、量的な変動については、葉の細胞内と細胞外に存在するフラボノイドで応答が異なり、細胞内ではカテコール型のフラボノイドが増加、細胞外ではメトキシル化された物質が一様に増加することが明らかとなった。多くの植物は細胞内にのみフラボノイドを蓄積させるが、中にはキク属植物のように細胞外に蓄積する植物もあることが知られている。しかし、これら蓄積箇所の異なるフラボノイドが各種環境ストレスに対してどのように応答するのかは明らかにされておらず、本研究で初めて明らかにされた。
|