研究課題
本研究は、「人類のアポクリン腺関連形質決定因子 : ABCC11のin vivoにおける生理的機能解析を軸に、アポクリン腺分泌機構の制御を担う分子システムを統合的に解明することを目的とし、アポクリン関連形質疾患 : 腋臭症(わきが)の治療薬探索に応用することを目指す研究」である。平成24年度までの研究で得られたABCC11発現マウスの解析を進め、検討したほぼ全ての組織においてABCC11タンパク質を発現することを確認した。免疫組織化学法により組織内局在を検証したところ、肝臓において胆管側膜に局在することが示された。ABCC11の生理的基質を探索する目的で、ABCC11発現マウスならびに野生型マウスの血清成分を対象としたメタボローム差異解析を行ったところ、複数の変動因子を見出すことに成功した。特に、ABCC11発現マウス群にて有意に変動する物質X(MZ 268.1041)に着目し、その構造同定に取り組んでいる。ABCC11のin vitro機能評価系としては、ABCC11発現用アデノウイルスを感染させた哺乳類細胞より調製した形質膜ベシクルを用いることで、放射ラベル体([3H] E1S)の取り込みを指標とする輸送能評価系を構築することに成功した。これらを応用することで、ABCC11の生理的機能解析ならびに機能阻害剤の探索が進展し、本研究目的の達成に貢献するものと期待される。また臨床検体を用いて、ヒト腋窩アポクリン腺組織におけるABCC11タンパク質の発現を検証したところ、野生型アレル(538G)を有する患者由来の試料にて成熟型ABCC11タンパク質の発現が確認された。以上の結果は、ヒト腋窩アポクリン腺における成熟型ABCC11の存在を初めて示したという点で重要であり、これまでの我々の実験データと合致し、ABCC11の機能が腋臭症をもたらすという我々の仮説を支持するものである。
2: おおむね順調に進展している
本研究計画を進める上で、最も重要であるABCC11発現マウスの作出に成功した。所属研究室が保有するUPLC-MSIMSを用いたメタボローム差異解析の立ち上げにも成功し、生理的基質候補物質が複数見出されてきている。ABCC11は物質の膜輸送を担うトランスポーター分子であるため、ABCC11の生理的機能解析において、その生理的基質の同定が極めて重要である。今年度までの研究において、上述の目的を達成するための基盤を構築することに成功し、かつ臨床検体の解析による裏付けが進んでいる。したがって、現在までの達成度を「おおむね順調に発展している」と判断した。
ABCC11発現マウスを用いたin vivo解析ならびにin vitro解析による裏付けを相互に進めつつ、ABCC11の生理的機能解析を推進する。引き続き、様々な分泌液を対象としたメタボローム差異解析を行うことで、ABCC11の内因性基質候補物質の探索を行う。ただし、標品となる化合物が容易に入手できない可能性が想定されることから、必要に応じ、①生化学的手法を用いた単離精製、②簡単にできるものについては有機合成・酵素的精製、③全合成の依頼などを行うことで対応することを予定している。また、ABCC11タンパク質の発現局在について、ヒト組織とABCC11発現マウス組織とを比較するために、各試料を対象とした免疫組織化学を行う。
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Pharmacogenomics.
巻: 14(12) ページ: 1433-1448
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実験医学
巻: 7月号 ページ: 136