研究課題/領域番号 |
12J03225
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研究機関 | 東京芸術大学 |
研究代表者 |
友岡 真秀 東京芸術大学, 大学院・美術研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | コジモ1世 / アンマンナーティ / 文化政策 / 彫刻 |
研究概要 |
本研究では、フィレンツェ公コジモ1世[在位1537-74(1569年以降はトスカーナ大公)]の統治時代を通じて進められたフィレンツェのパラッツォ・ヴェッキオの改築事業に焦点をあて、文化政策および作品制作の実態を明らかにすることを目指す。なかでも国内外の貴族や大使が一堂に会する政治的舞台として整備された二階の大広間(サーラ・グランデ)を考察対象とし、とりわけそこに配された歴代メディチの肖像彫刻群、「ヘラクレスの十二功業」に取材した諸彫像、そして実装に至らなかったバルトロメオ・アンマンナーティ[1511-92]の《ユノの泉》(バルジェッロ美術館所蔵)について作品解釈を進めるものである。こうした彫刻作品についてはこれまで十分に議論がなされていないため、研究上の欠落を埋めることが期待される。 平成24年度は、とくに《ユノの泉》について調査を重ね、作品の構想段階におけるコジモ・バルトリの存在を実証的に提示することが出来た。バルトリによる助言の可能性は先行研究において指摘されていたが、具体的な根拠を欠いた曖昧な示唆にとどまるものだった。しかし《ユノの泉》の図像解釈に言及した同時代の書簡の内容と一致する内容の記述を、本作品に先立ってバルトリが刊行したアルベルティ『建築論』の翻訳書の中に新たに見出したことで、図像の構想者としてのバルトリの介在を文献的根拠に基づいて提示するに至った。さらに、本作品に組み込まれた「パルナッソスの泉」を表わす寓意像の希少性に注目したことで、同時期にバルトリとフィレンツェの彫刻家カミッリアーニ、そしてアンマンナーティがこの図像を共有していたことが明らかになった。上記の成果については、平成24年5月の美術史学会全国大会にて口頭発表を行った。図像助言者と彫刻家との関係性を引き続き検討することで、コジモ1世の文化政策における彫刻制作環境の解明に新たな視座を設けうる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
考察対象に据えているパラッツォ・ヴェッキオ大広間の彫刻のうち、とくにアンマンナーティの《ユノの泉》の検討を主軸として進めている。また、同大広間の絵画装飾および他の彫刻群については、大広間全体での図像プログラムの解釈にむけて、これまでに基礎研究を網羅的に行ってきた。
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今後の研究の推進方策 |
図像プログラムの解釈にあたっては、主として作品の構想段階に着目して検討を進めるものとする。《ユノの泉》の図像助言者としてのコジモ・バルトリの介在を実証的に示した平成24年度の成果を踏まえ、パラッツォ・ヴェッキオ改築事業におけるバルトリの動向をキーワードとして、各彫刻群の制作環境を明らかにする必要が生じた。 したがって今後は、同改築事業にかかわるpジモ1世、図像助言者(バルトリおよびヴィンチェンツォ・ポルギー二)、諸芸術家らによる同時期の書簡や著作、覚書等の一次史料の詳細な読解・解釈に取り組む。また必要に応じてこうした史料の翻訳を行う。 一次史料へのアクセスおよび、作品解釈において必要となる比較作品の実見については、適宜現地調査を行うことで、より実証的な研究を目指す。
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