研究課題/領域番号 |
12J03232
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
夏秋 嶺 東京大学, 大学院・工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | 合成開口レーダー / 干渉画像 / 位置合わせ / 位相特異点 / フィルタリング |
研究概要 |
当初予定にあった干渉画像中に存在する歪みの物理面からの考察とそれを利用した、位相特異点と振幅を指標とした位置合わせ手法(SFS-SPEC法)とその改善のほか、当初予定に無かった複素マルコフランダム場を元にした複素相関学習によるフィルタリング(CMRFフィルタ)における複素相関学習の重要性についての研究をおこなった。 歪みが生じる原因としては電離層遅延、水蒸気遅延や、観測時期のずれによる地表面の微細な変化といったものが考えられる。しかし、電波伝搬環境を直接測定することは困難であるため、歪みを含んだ観測データから歪みが無い場合の観測データを予想することで、観測対象である地形の再現性の向上を期待するのが適切と考えた。まず、干渉画像を作成する際に一般に適用する平均化フィルタ(マルチルック)の際にマルチルック数を大きくすることで、空間分解能が低いかわりに局所的な歪みが平均化によって減少した干渉画像を得る。この分解能の低い干渉画像から大域的な位相差を推定する。この大域的な位相差から、SFS-SPEC法で推定した位相差の評価を行うことで、従来通りの高い空間分解能を保ちながらより正確な(最悪二乗誤差で3dBの改善)位置合わせを可能とした。 CMRFフィルタは計算機上では実部と虚部の2実数に分けた値が入力される。そこで、実部虚部を別個に処理するRI-MRFフィルタの実数相関学習との比較を行った。その結果、干渉画像の外見はほぼ同じであり、また、SP数の減少も同程度であった。しかし、位相値のヒストグラムを比較すると、元の干渉画像の位相値分布に対してRI-MRFは特定の位相値に局在していたほか、最悪二乗誤差で2dB程度精度が悪化していた。これは、RI-MRFフィルタが位相差を学習せず、実部虚部それぞれの相関を学習していることに由来する。これにより、複素相関学習のInSARにおける優位性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していた歪み補正の理論を構築するために必要な、物理面での考察は概ね予定通りに進捗した。 この考察を基にした、提案手法であるSFS-SPEC法を改良した手法は、性能が従来より向上した。この結果については、現在国際学会へ投稿中である。当初予定では干渉画像に対する位置合わせ手法の改善のみを研究計画に含めていたが、フィルタリング手法についても、新たな成果を得ることが出来た。すなわち、複素マルコフランダム場を元にした複素相関学習によるフィルタリング(CMRFフィルタ)における複素相関学習の重要性を実数相関学習との比較によって解明することが出来た。こちらの成果についても、現在国際学会へ投稿中である。
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今後の研究の推進方策 |
当初予定を維持し、実験室レベルの研究としてxyステージを用いだ簡易な観測装置を使用することで、提案手法の実用化に必要なフィードバックを得る。ただし、水平面で移動するXyステージではなく、垂直方向で移動するz軸ステージを新規に作成する。これは、入射角の微細な変動により、散乱源がどのように変動して見えるかを測定するためである。観測モデルとなる散乱源などは購入、製作する。レーダーによる観測では、観測点における電波の散乱状況が観測結果に大きな影響を与える。実験により、後方散乱係数の変動や、位相の回転といった散乱現象の、提案手法への寄与を求め、また対策を検討することで、提案手法の精度をより高められると考えられる。 また、これまでの研究成果について国際会議等において発表をおこなう。
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