前口動物に属する節足動物の補体遺伝子の進化について研究を行った。本研究では、鋏角類のシマウミグモ(Ammothea sp.)とアダンソンハエトリ(Hasarius adansoni)、多足類のアオズムカデ(Scolopendra subspinipes)、マクラギヤスデ(Niponia nodurosa)とオビヤスデ(Epanerchodus sp.)、甲殻類のウオジラミ(Pseudocaligus fugu、Caligus sp.)とウミホタル(Vargula sp.)についてRNA-seqを行い、補体遺伝子および補体の中心成分C3と同じ遺伝子ファミリーに属するチオエステル含有タンパク質(TEP)遺伝子の網羅的な解析を行った。その結果、シマウミグモ、アダンソンハエトリ、アオズムカデから補体C3とfactor B(BF)遺伝子が同定された。このことから、節足動物内の共通祖先 はC3とBF遺伝子を持っていたと考えられ、その後多足類内でムカデ綱との分岐後にヤスデ綱の共通祖先と、汎甲殻類の共通祖先の少なくとも二回独立に喪失したと考えられる。一方でα2マクログロブリン(A2M)とiTEP/CD109遺伝子は解析を行った八種全てから同定された。このことより、TEP遺伝子の中でC3のみが特異的に節足動物内の様々な系統で喪失したことが明らかになった。また、得られたBF遺伝子のアミノ酸配列を用いて作製した系統樹より、節足動物の古い段階で二系統のBF遺伝子が存在していたことが示唆された。
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