研究概要 |
本研究では,高感度・高分解能の電子・核スピンの光検出技術を基に,GaAs量子構造中の電子・核スピンコヒーレンスの制御を光学的手法により実現し制御技術を確立することを目的としている.本年度は,電子・核スピンのコヒーレントダイナミクスの制御に対して,電子スピン緩和の原因となるスピン軌道相互作用からアプローチし,細線加工した(001)GaAs量子構造におけるスピン軌道相互作用パラメータを決定し,また,核スピンの影響を調べた.スピン軌道相互作用(SOI)は電場中を電子が高速で移動することで相対論的効果によりスピンに有効磁場が働くというものであり,この有効磁場は電子スピン緩和の原因になる一方,外部磁場なしで電子スピンを操作できるとして期待されている.さらにRashbaとDresselhausの2つのスピン軌道相互作用の強さが等しいPersistent Spin Helix(PSH)状態ではスピンが永久に伝搬するとして注目されている.現在までに,[110]方向細線における電子スピン緩和時間を[110]の40倍以上長く(1.2ns)なることを示している.本年度はスピン緩和の抑制された[110]細線の細線幅依存性とモンテカルロシミュレーションとの比較から,SOIパラメータを決定できた.またその細線において,核スピンの影響を調べ,励起スピンの向きによりDNPによる核磁場の方向が変化することを確認し,スプリットコイルによって高周波磁場を掃引することでNMRスペクトルを観測することができた.一方,SOI有効磁場と励起スピンの方向が一致することで電子スピンの緩和が抑制できる(110)量子井戸においては,分極した^<75>As核スピンに対して高周波電界を印加し,四重極相互作用を変調することで電気的な核スピン共鳴が起きることを観測した.またそれら核スピンを電気的手法によりコヒーレント制御することに成功した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のとおり,細線中のスピン緩和ダイナミクスの細線幅依存性を測定することで,SOIパラメータを決定でき,またその細線において,動的核スピン分極とNMRスペクトルを測定することができた.以上のことから研究はおおむね順調に進展していると判断できる.
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今後の研究の推進方策 |
上記のとおり,スピン緩和時間が延長された細線において,核スピンとの結合を観測することができたため,今後はそのスピン緩和時間をゲート電圧によるSOIの変調によって制御し,核スピンとの結合の変化を測定する.また,高感度・高空間分解の顕微時間分解測定系の構築を行ない,量子ナノ構造中の電子スピン-核スピンの光検出を可能にする.
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