熱ゆらぎによってブラウン運動するサイズの微粒子に、温度勾配とそれに応じた外力場を加えることで、ゆらぎを利用して温度差から仕事を取り出す熱機関を実験的に実現することを目指して研究を行った。 まず、温度勾配のもとで実効的なポテンシャルを生じさせることによって、熱機関としての動作を妨げる非平衡輸送現象であるソーレ効果の性質を、その大きさ・向きを変化させることができるコロイド粒子/高分子溶液系において調べた。実験手法としては、前年度に引き続き、レーザーの干渉縞によってサンプル中に温度勾配を形成して回折光強度からソーレ効果の大きさを測定する手法である熱拡散型強制レイリー散乱法をもちいた。石英コロイド粒子/ポリエチレングリコール水溶液系の実験結果を検討したところ、石英コロイド粒子の実効的なソーレ効果の大きさがポリエチレングリコール濃度に対して非線形的に変化しているという結果が得られた。 また理論的には、これまで温度勾配や非平衡外力のもとでのブラウン運動において議論してきた異なる記述のスケールに関する問題を、少数個の異なる温度の熱浴に接触することで動作する熱機関のモデルに拡張した。このモデルにおいては、3つ以上の異なる記述のスケールが物理的に自然な状況で現れるため、まず詳細な記述のスケールからスタートして粗視化を行うことによって異なる記述のスケールにおけるダイナミクスを導いた。その上で、異なる記述のスケールにおける全系のエントロピー生成の関係に着目して、それらの間に一般には有限の差があることを明らかにした。
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