本研究は、希土類系高温超伝導線材の実用化にとってニーズが高まってきている長尺線材の局所的不均一性の評価技術を確立すると共に、不均一性発生のメカニズムを解明し、高温超伝導線材の実用性能の向上する事にある。そこで、高感度な微小ホール素子を磁気センサとして使用し、高速走査することで定量的な2次元分布を非接触かつ高空間分解能で得られる走査型ホール素子顕微鏡(scanning Hall-probe microscopy;以降SHPM)を用いて、超伝導線材の臨界電流密度評価を行うことを目的とした。更に、超伝導線材をRtR形式の線材搬送機構を用いて、長手方向に搬送しながらホール素子を線材幅方向に対して高速往復走査を行う。しかし、長尺線材評価において、液体窒素中で浸漬冷却した線材を、長手方向に搬送させながらホール素子を幅方向に高速走査させるリール式走査型ホール素子顕微鏡(Reel-to-Reel Scanning Hall-Probe Microscopy:RtR-SHPM)を使用する場合、2次元臨界電流密度分布を磁場分布より得る際に必要な測定時のホール素子と線材表面間の距離(Lift-off距離)のドリフトや振動の影響を無視できない可能性がある。また、距離計でLift-off距離を評価、制御することも考えられるが、高速測定を実現するためには、距離計を用いずにLift-off距離を導出する手法が求められている。そこで本研究では、測定対象物の外部では電流が流れないという条件に着目し、距離計を用いずにLift-off距離を導出する手法を提案した。測定した磁界分布のみから、Lift-off距離を定量的に評価し、さらに電流分布の解像度を決めるCut-off波長の導出まで自動導出可能なプログラムを開発した。また、均一性の向上した長尺線材の局所不均一性評価を実現するため、超低雑音増幅器を導入によるRtR-SHPMの高感度化を実施した。以上の研究により、実用超伝導線材の局所特性評価手法として有望なRtR-SHPMの基盤技術を確立した。
|