研究概要 |
マイクロスリップという,身振りに見られる微細なよどみ現象が,来談者の問題認知構造の脱構築・再構築の指標となりうるか検討するため,平成24年度は主に【研究II:来談者の問題認知構造の変化の把握《質的分析》】を行った.この過程において,身振りだけでなく,言い替えやフィラー等,発話における言いよどみへの着目も必要と考えるに至った.それは言いよどみ現象の背景にも,マイクロスリップと同様の背景がある可能性が示唆されたからである.言いよどみは,発声に関わる器官を観察する必要があるため運動学的な観察は非常に困難である.しかし,その観察可能な側面である音声に着目すると,発声という行為を遂行する直前または遂行しかけた時に,他の発声可能性に気づき,自身の行為を調整したという背景を持つと言える.このように考えると,マイクロスリップと併せて言いよどみを観察することで,"ある行為"と"他の行為可能性"の両側面を推測することが可能となり,これらのよどみが来談者の問題認知構造の脱構築・再構築の指標となりうると考えられる. このような考えのもと,来談者の発話と身振りがよどんだ際の視点構造について検討したのが日本生態心理学会での発表(末崎ら,2012)である.本発表ではマイクロスリップ前後の指示詞の迷いに伴う言いよどみと,その再組織化過程の記述を通して,来談者の問題への視点と,新たな視点との間の立ち位置の迷いが発話と身振りに現れてくることを見出した.また登場人物の呼称に着目した検討は,現段階では研究会での発表にとどめているが,今後順次発表する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は,申請書に記載の研究計画をさかのぼる形になるが,【研究1:来談者のマイクロスリップ生起機序の検討《定量的・質的分析》】について発話のよどみも視野に入れつつ検討すること,および観察事例を増やして検討することを通し,本研究課題の解決ならびに博士論文の執筆を目指す.
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