現在まで、iPS/ES細胞から血液前駆細胞や成熟穎粒球、赤芽球、マクロファージに効率良く分化する系の確立に成功した。この分化系は、血清やFeeder細胞との共培養を必要とせず、非常に再現性よくiPS細胞の分化効率を調べることを可能にした。この分化系を用いて約40ラインのヒトiPS/ES細胞から血液細胞へ分化誘導を行い、その分化効率を比較、検討した。その結果、ヒトiPS/ES細胞の血液分化能には、非常に大きな株間差があることがわかった。また同時に未分化iPS細胞のゲノムメチル化、遺伝子発現をメチル化アレイ、マイクロアレイ等を用いて解析を行い、血液分化能に影響を与える因子の同定を試み、現在まで複数の因子を抽出することに成功した。現在それらの遺伝子のGenecloningや、遺伝子導入・RNA干渉などの方法を用いて抽出した因子の血液分化に与える影響を調べている。iPS細胞の作成方法と血液細胞への分化能の関係や、iPS細胞が起源体細胞の性質がゲノムメチル化等に残存すると言われている事象:即ちEpigenetic memoryの有無に関しても検討を行っている。今後はこれらの実験によって得られた知見を、更に効率が良く、臨床応用可能な質の良い血液細胞への分化法の確立に活用したいと考えている。iPS細胞から血液細胞への分化誘導は、輸血医療、移植医療への臨床応用が期待されているが、我々の研究は、(1)効率のよい質の良い分化誘導法の確立や(2)血液分化誘導に適するiPS細胞株が事前に選別できることが可能になるなどの点にて将来のiPS細胞の臨床応用に多いに貢献するものと期待される。
|