研究概要 |
ヒト人工多能性肝細胞(iPS細胞)は、肝細胞等のあらゆる細胞に分化することから、再生医療への応用や、薬物のin vitro毒性スクリーニング系に応用することが期待されている。ヒトiPS細胞から高効率かつ高機能な成熟肝細胞を分化誘導可能な方法を確立するために、生体内肝臓環境をin vitroで模倣した分化培養系の構築、具体的には、肝発生時に隣接している細胞および肝組織構成細胞との共培養が可能な三次元分化培養系の確立を目指し、研究を遂行した。三次元培養法が種々存在する中で、共培養細胞とiPS細胞由来分化誘導細胞との隣接面積が高く、且つ細胞と足場素材との相互作用を極力無視できるといった点から集積培養法に着目した。この方法は、細胞1個1個の表面にフィブロネクチン―ゼラチン薄膜を形成させることにより、細胞間の接着足場を提供し、細胞を垂直方向に積層化できる三次元培養法である。三次元培養下でiPS細胞由来肝細胞の成熟化を行った際に、平面培養条件と比べて肝機能が向上するかを調べた。iPS細胞から肝幹/前駆細胞を分化誘導後、細胞を剥離し、細胞へ薄膜コーティングを行った。これら細胞をセルインサートに播種することで、三次元体を形成させた後、肝細胞成熟化培養条件下で培養を行った。その結果、単層で成熟化した系に比べ、薬物代謝酵素遺伝子の発現量が上昇した。その中でも特に、CYP2D6, CYP2C9, CYP1A1, CYP1A2の発現が5~15倍上昇した。 さらに、体細胞からips細胞を経ず、直接的に肝細胞への分化誘導可能な手法の開発についても検討を行った。肝幹/前駆細胞のマーカーであるα-フェトプロテインプロモーターの下流にGFPを搭載したトランスジェニックマウスを入手し、このマウスの胎児繊維芽細胞(Afp-GFPMEF)を用いて直接的分化誘導実験を行った。Afp-GFPMEFに初期化リプログラミング遺伝子(Oct3/4, Sox2, Klf4, c-Myc)を遺伝子導入し、partially-reprogrammingを起こし、そこから肝分化培養条件下で培養すると、約2週間後にGFPの蛍光を示す細胞が出現した。GFP陽性細胞をソーティングし、遺伝子発現を調べたところ肝幹前駆細胞様細胞が分化誘導できたことが分かった。
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