研究概要 |
血管の無血清培地での器官培養法は組織構築を維持し組織特異的な細胞機能を保持している為、薬物の長期作用を検討する上で有用な実験系である。しかし無血清培地での器官培養血管は急性摘出血管(fresh)と比べると収縮張力の減弱や感受性の変化などがおこり、freshとは異なる性質を示す。本研究ではfreshと比べ器官培養により誘導される変化およびその機序を、1.血管内皮細胞では活性酸素種(ROS)、2.血管平滑筋細胞ではmammalian target of rapamycin complex1(mTORC1)に着目し検討した。以下に本年度の研究成果の概要を示す。1.血管内皮細胞:生体内の血管は常に血液にさらされており、血液中の様々なタンパク質、ビタミン、脂質などが血管恒常性維持に重要と考えられる。そこで本研究ではこれらの栄養素を含む成熟ラット血清の器官培養ラット前腸間膜動脈における弛緩機能に及ぼす影響を検討した。3日間の無血清器官培養血管内皮細胞においてfreshと比べミトコンドリア膜電位が上昇し電子伝達系を介したよりROS産生が生じることで内皮依存性弛緩反応および内皮形態が障害されるが、成熟ラット血清の添加はROSを除去することによりその弛緩反応減弱と形態傷害を回復させることを明らかにした(Vascul Pharmacol 2013)。 2.平滑筋細胞:mTORC1は多様なシグナル(増殖因子,ストレス,エネルギー状態,酸素レベルおよびアミノ酸)を統合することが知られており、無血清器官培養血管においてもmTORC1が活性化される可能性がある。本研究では無血清器官培養により収縮張力が減弱するメカニズムを、mTORC1に着目し検討した。5日間の無血清器官培養血管( 0%serum)においてはfreshと比べKC1による収縮張力が有意に減弱し、組織形態学的に中膜平滑筋層が粗鬆化した。mTOR阻害薬ラバマイシンを無血清培地に添加したところ、0% serumで観察された収縮張力の減弱および中膜平滑筋層の粗鬆化が改善された。実際に0% serumにおけるmTOR発現をWB法で検討したところ、freshと比べ有意に増加し、ラバマイシン処置はそれを抑制した。 以上の結果は、無血清培地での器官培養により破たんする血管恒常性維持機構を明らかにした点、成熟ラット血清や薬物を用いてこれらを是正した点で重要であり、生体内の機能を維持した血管の器官培養法確立へつながるための基礎的な知見を得たと考えられる。
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