研究課題
本研究では、しばしば水産業に重篤な被害をもたらす赤潮原因藻Heterocapsa circularisquamaとそれに感染するウイルスについて、赤潮原因藻が「ウイルスの攻撃を回避する機構」を微細形態および分子生物学の両面から比較解析し、理解することを目標としている。平成24年度は「(1)形態学的観察の準備実験」、「(2)急速凍結置換固定法の導入」、「(3)ウイルス抵抗性細胞の性状解析」を計画していた。(1)については、人工合成した抗ウイルス抗体の性能を調査するため、ウエスタンブロッティング、蛍光抗体法を実施した。そして、この抗体が111000希釈でも十分に効果を確認できること、感染細胞質内でウイルス粒子の蛍光を観察できることを確認し、抗体力価、特異性ともに高いことを明らかにした。(2)の急速凍結置換固定法の導入については、本研究ではすでに実用化されている手法を応用し、比較的安価かつ容易に作業できる方法をH. circularisquama細胞に導入した。特に細胞ペレットの乾燥・凍結をフィルター上で済ませる手法を考案し、結果的に本手法が微細藻類全般で実用性に富むことを示した。(3)で計画しているウイルス抵抗性H. circularisquama細胞の性状解析については、同様にウイルス感染による影響を受ける微細藻で、実験材料として供しやすい珪藻を用いて先行予備実験を行ってきた。その結果、培養液中にバクテリアが存在する場合、このバクテリアがウイルス抵抗性大きな影響を与える可能性が浮上してきた。さらに、少なくともSulfitobactor sp.含め数種のバクテリアがこの珪藻ウイルス抵抗性に影響を与えることを示した。この実験結果からバクテリアがH. circularisquamaのウイルス抵抗性に関与する可能性も示唆され、H. circularisquamaでもバクテリア関与の可能性について新たに研究を開始した段階である。上記3つの研究項目で得られた成果については、すでに複数の国内外の学会で報告し、合計3報の英文誌で報告し、さらに英文誌に1報投稿中である。'
1: 当初の計画以上に進展している
本年度の研究計画では、H. circularisquama細胞の高度電子顕微鏡観察手法の確立及び抗ウイスル抗体の実験適応化を行うことが主であった。本年度はこれらの課題について順調に成果を挙げ、一部は英文誌、学会等で報告を済ませている。さらに、ウイルス抵抗性にバクテリア共存が関連することを新たに見出し、この現象について学会報告をし、論文の投稿段階まで持ち込んでいる。この点では期待以上の研究進展であったと言える。
当初の平成25年度研究計画では、細胞へのウイルス侵入過程の電子顕微鏡観察と遺伝子比較解析によるウイルス感染関連遺伝子の探索を計画していた。一方で、平成24年度の研究により、バクテリアの存在とウイルス抵抗性の関係を精査する必要性が新たに生じている。そのためバクテリアとウイルス抵抗性について培養を中心とした性状解析を新たに進める予定である。またウイルス抗体を用いた蛍光抗体法観察によって、死滅細胞数に対してウイルス保持細胞数が圧倒的に少ない可能性が浮上している。そのため、ウイルス感染細胞数の経時的変化を、蛍光抗体法を用いて確認し実感染細胞数の特定を試みる予定である。これらの解析を通じて、ウイルス抵抗機構を理解するための、感染機構の実態に迫れると期待している。
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Plankton Benthos Res
巻: Vol. 8 ページ: 1-3
Phycol Res
巻: Vol. 61 ページ: 27-36
Microbes Environ
巻: Vol. 27 ページ: 483-489
Plankton Benthos Res.
巻: Vol. 7 ページ: 126-134