研究概要 |
本研究は, 赤潮による水産業被害の軽減に向け, ウイルスの赤潮防除への施用を妨げる要因となっている赤潮原因藻Heterocapsa circularisquamaのウイルス抵抗性機構の理解を目的としている。本研究では, H. circularisquamaとそれに感染するウイルスを用い, ウイルス感染過程のどの時期にウイルス抵抗性機能が発現しているのかを, 微細形態および分子生物学の両面から比較解析する。平成25年度は, 「(1)ウイルス抵抗性細胞の形態学的観察」, 「(2)ウイルス抵抗性細胞のトランスクリプトーム解析」, 「(3)ウイルス感染関連分子の探索」を計画していた。一方, 平成24年度の研究から, 微細藻類のウイルス抵抗性がバクテリアにより誘導されるという事実を, 珪藻Chaetoceros tenuissimusをモデルとした実験系で突き止めていた。これに基づき, 本研究対象であるH. circularisquamaの無菌系の再構築に立ち戻った性状解析を実施しなおす必要が生じていた。そのため当初予定の研究進行度合が低くなることが懸念されたため, 情報の蓄積している珪藻C. tenuissimusで上記(1)~(3)を実施し, その成果をH. circularisquamaにフィードバックすることを平成25年度の研究課題とした。(1)については, 微細藻類のウイルス抵抗性にバクテリアが関与することが示唆されるため, バクテリアと宿主との関連に注目した。観察の結果, 宿主珪藻細胞のごく近傍にバクテリアが多数集合し, 接触等によるバクテリア関与が強く示唆される結果となった。(2)については, 微細藻の網羅的 RNA シークエンスデータベースから, ウイルス感染に関わると予想される遺伝子を探索した。その結果, 特にウイルス抵抗性株で過剰に発現し, 対象区では発現量が低い3種のContigを見出すに至った。(3)については, ウイルス感染関連分子としてウイルス受容体の同定を試みた。ウイルス結合性タンパク質検出手法Virus Overay Protein Binding Assayによってウイルスと結合する藻類由来タンパク質を4つ検出することに成功した。 平成25年度は, 上記の研究成果に関連した合計2報の英文誌を報告し, 複数の国内学会においても成果報告を実施した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度の研究計画では, H. circularisquamaのウイルス抵抗性細胞の観察, ウイルス抵抗性細胞に発現する分子の特定が課題であった。一方でバクテリアがウイルス感染性に影響を与えることを見出し, H. circularisquamaにおいて無菌実験系の再構築が必要となっていた。そこで, Chaetoceros tenuissmusをモデルとして, 本年度の研究課題を遂行し, H. circularisquamaにフィードバックする手法で, 順調に成果を挙げてきた。成果は英文誌, 学会等で順調に報告しており, 概ね順調に進展している状況と言える。一方で, H. circularisquamaでのウイルスによる死滅細胞数変動の評価手法を確立するなど, 当初の研究計画以上にウイルス感染能評価分野で進展があった。これらの点では期待以上の研究進展であったと言える。
|
今後の研究の推進方策 |
平成25年度の解析により, C. tenuissimusでウイルス感染に関連する遺伝子の特定が進み, ウイルス受容体の同定も進みつつある。平成26年度は, 特定が進んだ遺伝子の詳細な発現解析, 機能解析を実施する。また並行して同定が進みつつあるウイルス受容体のタンパク質の質量分析を実施し, 受容体をコードする遺伝子の特定を試みる。最終的に, ウイルス感染関連遺伝子の発現比較, ウイルス粒子とウイルス受容体の局在解析を実施することで, ウイルス抵抗性がウイルス吸着時の影響によって引き起こされるのか, また宿主細胞内部の機構によってひき起こされるのかについて考察する。さらに, H. circularisquamaで実施されている次世代シーケンサーを利用した遺伝子配列データと, 上記の遺伝子を照らし合わせ, ウイルス感染, および抵抗性との上記遺伝子の関連を検証する。
|