本研究の目的は新エネルギー源として注目を集めている水素分子をアルコールから発生させる触媒の開発を目的としている。特に、低価格で枯渇の懸念がなく、安定供給が可能な鉄を中心金属とする触媒の開発に取り組む。研究の最終目標としては、メタノールやエタノールなど、バイオマス資源の発酵により生成可能なバイオアルコール類からの水素発生反応の構築を目的している。 昨年度は目的とするアルコールの脱水素反応に対して触媒活性を示す錯体を合成するために、DFT計算を元にした配位子の設計およびそれら配位子を有する触媒前駆体の合成を行い、その結果を足掛かりとして触媒の開発を行った。種々鉄触媒の探索を行った結果、シクロペンタジエニルビスカルボニルクロロ鉄錯体(CpFe(CO)2CI)と水素化ナトリウムを触媒として用い、トルエン中還流条件下で反応を行うことで目的とするアルコールからの水素生成反応が進行することを見出した。この反応は2-ピコリルアルコール類のみ選択的に進行し、水素と対応するケトン/アルデヒドを与える。 今年度はピコリルアルコキシドを配位子とする中間体の単離やそれに基づく触媒機構の解明にも成功しており、これらの知見をもとに前駆触媒を改良することで取り扱いの困難な水素化ナトリウムを用いないより簡便な反応系の開発にも成功している。 本触媒系は初の卑金属触媒によるアルコールからの水素発生反応であり、また、非常に高い活性触媒回転数(TON)67000を実現している。上記に加え、塩基等の添加物を必要としないため、副生成物が水素のみであり、脱水素後のケトンもしくはアルデヒド化合物を容易に単離することが可能である。
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