研究概要 |
メチル水銀(MeHg)は環境中にユビキタスに存在し、魚介類による生物濃縮を介してヒトに蓄積する有害物質である。ヒトへのMeHgの蓄積は、難治療性神経疾患や心血管系疾患の要因となる。しかし、分子レベルではMeHgの毒性発現機構には不明な点が多い。本研究では、特にMeHgに起因する心血管系への毒性に着目し、その毒性発現の分子機構と予防法の解明を目指している。平成24年度は、MeHgに起因する心血管系への毒性を個体レベルで検討することと、その毒性のメカニズムを検討することを目的としてきた。本年度の成果を下記に示す。 1.MeHgにより心臓の保護に関わるシグナル伝達が抑制される MeHgを連続投与したマウスにおいて、心臓の病理像を観察したところ、形態的に特徴的な変化は認められなかった。一方、当該マウスの心臓のタンパク質発現変動を検討したところ、防御応答に関わるAktシグナルの活性化がおよそ40%有意に低下していた。心臓におけるAktシグナルの抑制はアドリアマイシンによる心不全を惹起することが知られている。そのため一連の成果は、MeHgはそのもの自身には心血管系障害を惹起しないものの、他の因子と交絡することで心血管系疾患のリスクを上昇させることを示唆する。 2.MeHgはAktをS-水銀化することでシグナル伝達を阻害する MeHgによってAktシグナルが抑制される時、細胞内においてAktはS-水銀化(MeHgとタンパク質中システイン残基との共有結合)されていた。AktはCys310が化学物質により修飾された場合、自身のリン酸化と活性が低下することが報告されている(J Y Lee, et al., J Biochem, 2010),そのためMeHgも同様のメカニズムによってAktを阻害した可能性がある。
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