研究課題
近年の疫学調査から低濃度のメチル水銀 (MeHg) の人体への蓄積と心疾患リスクとの関与が指摘されているが、その機序は不明である。昨年度までの申請者の研究結果から、MeHgは心疾患のイニシエーターというよりもプロモーターとして関与することが示唆されており、そのメカニズムとしてミトコンドリア形態異常の関与が予想された。最終年度である本年度は、この仮説を軸に、心筋においてMeHgが引き起こすミトコンドリア分裂の機構と心不全亢進のメカニズムに関して検討を行った。MeHg (10 ppm) を10日間自由飲水投与したマウスの心臓を電子顕微鏡により観察した結果、ミトコンドリア小胞化の亢進が示された。ミトコンドリアの小胞化 (分裂) にはDrp1の活性化が重要であり、そのCysの修飾 (S-水銀化) がMeHgによる活性化のトリガーとなることは昨年度に報告した通りであるが、実際にDrp1が活性化しているかは不明であった。そこでGTP-agaroseによるプルダウンアッセイにより、その活性化を検討したところ、NRCMおよびin vivoにおいてMeHgによるDrp1の有意な活性化が示された。MeHgによるS-水銀化の標的部位をMALDI-TOF/MSにより同定したところ、Cys624であることが明らかとなった。GFPタグ付きのDrp1のCys624のSer異体を作成しHela細胞に発現させ、MeHgによる多量体化を観察した結果、本変異体では多量体化が起こらないことが判明した。以上より、MeHgはDrp1のCys624をS-水銀化することで活性化し、ミトコンドリアの小胞化を引き起こすことを見出した。また、Drp1の阻害剤であるMdivi-1を処置した細胞では、ミトコンドリアの小胞化が抑制さると同時に、MeHgによる圧負荷による細胞死は低下した。以上、本研究から、MeHgは心筋中のDrp1のCys624と結合することで、ミトコンドリアの分裂を誘導し、それによって圧感受性が高まった結果、心疾患のプロモーターとして心不全に寄与することが世界に先駆けて明らかとなった
26年度が最終年度であるため、記入しない。
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