研究課題/領域番号 |
12J03404
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
冨永 理人 京都大学, 工学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | カルボラン / ホウ素化合物 / 縮環型共役系分子 / 発光性共役系高分子 / 電子受容性オリゴチオフェン / チオフェン / ベンゼン |
研究概要 |
当該年度において、以下の研究成果を挙げた。 (1)様々な芳香環縮環型ベンゾカルボラン含有共役系分子・高分子の合成 代表的な芳香族化合物であるチオフェンやベンゼンと縮環したベンゾカルボランを合成することに成功した。o-カルボラン誘導体の分子内環化反応を利用することで、これまで合成が困難だったベンゾカルボランを良好な収率で得ることが可能となった。得られた化合物はカルボランによってその分子構造が固定化され、非常に高い平面性を持つことが単結晶X線構造解析の結果から判明した。このような平面性の高い共役系分子は分子内で効果的なπ電子の非局在化を起こすことから、キャリア移動度の高い半導体材料などへの応用が期待できる。さらに、カルボランクラスターが強い誘起効果性電子求引を示すことから、芳香環縮環型ベンゾカルボランはベンゾカルボラン部位のないモデル化合物と同程度のバンドギャップエネルギーを持ちながら、そのHOMO・LUMOエネルギー準位が大きく低下していることが明らかとなった。これらのことから、本分子は分子内に非常に高い平面性を実現させながら、分子そのものの電子状態をコントロールすることができ、電子材料構築における有益なビルディングブロックであることが示された。 (2)o-カルボランの9、12位で結合した共役系高分子の合成とその物性 o-カルボランの9、12位ホウ素を主鎖に有する共役系高分子の合成に成功した。光学測定の結果、得られた高分子は溶液状態で主鎖のトラン部位に由来する絶対蛍光量子収率38%の青色発光を示し、o-カルボランの9、12位ホウ素を介した有効共役長の拡張は示唆されなかった。一方、フィルム状態や貧溶媒である水が多量にある凝集状態においては濃度消光によってその蛍光強度が大きく減少することが明らかとなった。o-カルボランの1、2位炭素を主鎖に有する共役系高分子は溶液状態で蛍光発光を示さず、凝集状態で強い発光を示す凝集誘起型発光(AIE)を示すことが当研究室で明らかになっている。今回合成した高分子の主鎖は電子求引性のカルボラン炭素ではなく、電子供与性のカルボランホウ素から成るので、AIEを示さず、主鎖骨格由来の発光を溶液状態で顕著に示したと考えられる。 この結果は密度汎関数法による分子軌道計算によっても裏付けられている。これらのことから、同じo-カルボランクラスターを用いても、置換位置を変化させるだけでまったく異なる光学性質を示すことが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
(1)に関しては、芳香環縮環型ベンゾカルボラン含有共役系高分子の合成条件の検討段階にあり、既に高分子量体を得るための準備は整っているといえる。また、低分子量体でより多くのベンゾカルボランで共役平面を固定化した分子の合成にも成功しており、順調といえる。(2)に関しては、9、12位ホウ素置換型カルボラン色素の光学的性質に関して既に知見を得ることに成功しており、現在炭素側とホウ素側に異種の発光団を併せ持つカルボラン誘導体の合成にも着手しており、より発展的なカルボラン含有発光材料の知見が得られると考えられ、順調だと判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)様々な芳香環縮環型ベンゾカルボラン含有共役系分子・高分子の合成 今後、芳香環縮環型ベンゾカルボランを主鎖に有する共役系高分子を合成し、それらを用いてOFETデバイスを実際に構築することで電荷・正孔輸送能にベンゾカルボランが及ぼす影響を実際に評価を行う予定である。 (2)o-カルボランの9、12位で結合した共役系高分子の合成とその物性 o-カルボランの9、12位ホウ素による有効共役長拡張は見られないことが明らかとなったので、凝集状態でAIE由来の発光を示す1、2位炭素側と溶液状態でLE由来の発光を示す9、12位ホウ素側両方に共役系ユニットを導入することによる光学挙動を詳細に調査していく予定である。
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