研究概要 |
昨年度、1111型構造を有する化合物に対する水素置換法を確立し、本年度は、本研究課題で提案された手法によって作製された水素化物の水素の選択熱脱離を試みた。水素置換法によって作製された試料は、絶縁層の種類によって水素が酸素ないしフッ素サイトを置換している。特に、水素がフッ素サイトを置換する系であるCaFeAsF_<1-x>H_x(0≤x≤1)においては、水素の全置換が容易に可能であり、含有する水素量を制御することが可能である。また、この材料系においては、水素が600℃以下で完全に熱脱離するのに対してフッ素は1000℃程度まで熱脱離せず、両者の熱脱離温度の差を利用し水素の選択的な熱脱離を行った。1111型鉄系超伝導体はLnO(Ln=希土類)およびAeF(Ae=アルカリ土類)絶縁層とFeAs伝導層が積層した構造を有しており、この絶縁層を置換するドーピング手法(間接ドーピング法)でのみ50Kを超える高い超伝導転移温度を示すことが知られている。しかし、AeFeAsF化合物では、絶縁層の元素置換によるドーピングが困難であることから、新しい間接ドーピング手法の確立が求められていた。本研究では、CaFeAsF_<1-x>H_x(x=0.2, 0.4)を相の分解を防ぐために、270℃程度の低温で長時間アニールすることで水素の選択脱離に成功した。物性では、水素の脱離に伴い、電子ドーピングが生じ28Kの超伝導状態が生じることを明らかにした。これらの超伝導転移温度は従来のドーピング手法である超伝導を担う伝導層(FeAs層)に対する元素置換(直接ドーピング法)における超伝導転移温度23Kよりも高く、目的であった伝導層に乱れを生じさせない絶縁層へのドーピング(間接ドーピング法)達成されたことを示唆している。これらの成果は、通常欠損構造の作製が困難である系に対しても水素を導入した系を合成し、相の分解が生じる温度以下で水素を脱離することで欠損構造が作製できるを示した新しい材料合成の手法であり、水素置換法の新たな応用の可能性を示すことに成功したと言える
|