研究概要 |
本研究では,実験・解析の両面から多層カーポンナノチューブ(CNT)の電気伝導度ひずみ依存性の解明を目指している.本年度は,特に機械的ひずみによって生じる軌道混成の影響を第一原理解析を用いて解析した.まず,ひずみを負荷した時のCNTの変形挙動を分子動力学シミュレーションを用い,特に屈曲部における炭素間結合距離や二面角(隣接する原子のπ軌道がなす角)の変化を詳細に解析した.さらに,第一原理解析を用い,CNTとCNTを展開したグラフェンナノリボン(GNR)にひずみを負荷した時の電子状態変化を解析し,CNTとGNRの電子構造を比較した.GNRを用いたのは,CNTにひずみを負荷した場合,変形が複雑で電子構造に及ぼすひずみの影響が不明瞭になるためである.無ひずみ状態で大きなバンドギャップを持つCNTとGNRのバンドギャップは,どちらも最大二面角がある臨界値を超えた時に減少を開始した.GNR,CNTの臨界最大二面角はそれぞれ10-20度,25-30度の範囲にあり,バンドギャップの減少速度はそれぞれ約0.03eV/degree, 0.06eV/degreeであった.CNTのギャップ減少速度はGNRのギャップ減少速度のおよそ2倍であり,大きな二面角を持つ領域の多いCNTではギャップの減少速度が大きくなることが明らかになった.また,圧縮ひずみを負荷した(17,0)CNTの原子構造を解析した結果,無ひずみ状態で二面角は0-20度の範囲に分布し,圧縮ひずみを負荷し屈曲した場合,20度以上の二面角が増加することが明らかになった.これは,CNTが屈曲すると軌道混成が発生する臨界値以上の二面角を持つ原子が増加し,電子構造が大きく変化することを示している.本年度は主に単層CNTにおける原子構造と電子構造の関係について詳細に解析し,二面角の増加により軌道混成が発生することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の目標は,電気伝導度の解析や変形したグラフェンやCNTの層間の影響であったが,単層CNTやGNRの電子構造解析しか出来なかった,一方で,実験や電気伝導度解析の準備も進めているため,来年度,研究を加速したい.
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今後の研究の推進方策 |
局所ひずみによるCNTやGNRの電子構造や電気伝導度の変化を解析する予定である,解析手法としては,タイトバインディング近似に基づくグリーン関数法を用いるが,第一原理解析による結果と比較し,パラメータを調節する.これにより,第一原理解析では計算コストが膨大になる屈曲した複層CNT等,より大きなモデルの電気伝導度解析を行う.さらに,解析の妥当性を検討するため,CNTやグラフェンの電気抵抗ひずみ依存性を実験により測定することも目指す.
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