研究概要 |
本研究では, 実験・解析の両面から多層カーボンナノチューブ(CNT)の電気伝導度ひずみ依存性を解明し, 多層CNTを用いたひずみセンサの設計指針を確立を目指している. 昨年度, ひずんだCNTの電子状態と幾何学的状態の関係づけを目指し, 半径方向ひずみを負荷した時の軌道の混成を二面角という幾何学的構造を用いて表せることを示した. そこで本年度は, 半径方向ひずみ負荷によるバンドギャップの変化メカニズムを詳細に検討した. バンドギャップ変化の大きい半導体的なジグザグCNTを用い, 第一原理解析により半径方向ひずみを負荷したときのCNTの電子状態の変化を解析した所, バンドギャップ変化は非占有軌道により決まっていることが明らかになった. CNTに半径方向ひずみを負荷すると縮退していた状態の縮退が解け, 縮退した一方の状態エネルギーが減少する. この状態エネルギーの減少は価電子帯内で, エネルギーの高い状態から低い状態へと伝達するため, 結局最低空軌道エネルギーが減少する時にCNTのバンドギャップが減少する. このバンドギャップの変化メカニズムを明らかにするために, 軌道の変化を詳細に解析した所, 半径方向ひずみを負荷すると曲率の大きな領域に非占有軌道が局在化し, さらに大きなひずみを負荷すると壁間の相互作用が働き, 急激にバンドギャップが増加することが明らかになった. また, 半径方向ひずみを負荷すると曲率の大きな領域に局在化する軌道が存在する一方, ひずみに鈍感な状態も存在した. この状態によるひずみ敏感性の違いは, 状態密度の空間分布により決まることが明らかになった. 最後に, 非平衡グリーン関数法を用いて, 同様の半径方向ひずみを負荷した時の電流の変化を解析した結果, バンドギヤップの増減に対応して, 電流値も変動していることが確認出来た. これらの解析結果は, 走査型トンネル顕微鏡を用いて測定出来るため, 実験による解析結果の実証が期待される.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は前年度の解析結果を受け, CNTに半径方向ひずみが負荷した時の軌道の空間分布の変化を詳細に解析した. その結果, CNTの半径方向ひずみによるバンドギャップ変化は, 非占有軌道の変化により決まり, 非占有軌道の相互作用によりCNTのバンドギャップ変化挙動を説明出来ることを明らかにした. この結果はを学会等で発表した所, 本年度は国際学会にて2件の賞を受賞しており順調に研究が進んでいるといえる.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は, これまでの2年間行って来た解析結果を実証するための実験を主に進める. 既に単層CNrの作製を進めており, それを用い軸方向・半径方向ひずみ負荷による伝導特性の変化を測定する. 軸方向ひずみに関しては, 主に電流・電圧特性, 半径方向ひずみに関しては, 走査型トンネル顕微鏡を用い非占有軌道の変化の観察と電流・電圧特性の測定を行う. 従来の研究では, 実験的・解析的な結果に不一致が見られたが, 本研究によりCNTの電気伝導特性ひずみ依存性が体系的に理解できるものと期待している.
|