研究目的 細胞内におけるタンパク質機能発現の制御に関わる、アロステリック相互作用の分子内伝達メカニズム解明を行うため、伝達経路となるアミノ酸残基とそれらの相互作用を明らかにする。 研究実施計画 (1)前年に引き続き、トロンビン-基質会合反応に対して、環境として作用するカチオンの効果を検証する。(2)天然型トロンビンに比べて、酵素活性が著しく低いキメラ・トロンビンのシミュレーションを行う。活性部位の構造に注目し、天然型とキメラの比較を行い、トロンビン-基質複合体におけるカチオン結合の役割を検討する。 具体的内容と意義・重要性 (1)トロンビンの周りのカチオン分布の解析から、「非結合カチオンは遭遇複合体の形成を最適化する」という知見が得られた。ナトリウムイオンの非部位特異的相互作用の重要性を示し、アロステリック相互作用の概念拡張を提案した点に意義がある。(2)酵素反応の第一段階であるSer195-His57間のプロトン・リレーに注目し、天然型およびキメラ・トロンビンを比較した。キメラ・トロンビンではカチオンが結合することで、プロトン・リレーが起こる部位の水素結合形成数が10%低下することが分かった。このことは、キメラの酵素活性の低下に寄与すると考えられる。カチオンが結合したキメラ・トロンビンでは、Ser195とHis57および基質分子との相互作用がエネルギー的に不安定化する。一方、Ser195とGlu192の相互作用が安定化する。結果、Ser195とHis57の位置関係が変化により水素結合数の低下が起こったと考えられる。以上から、Glu192がアロステリック相互作用の伝達に関与していることが示唆された。部分的とはいえ、アロステリック相互作用伝達に関わる残基が分かったことは、今後のトロンビンのアロステリック相互作用の伝達機構の全容解明に向けた重要な進展であると言える。
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