研究概要 |
エネルギー大量消費が深刻な問題となっている,高速車両や超音速機の周囲に生じる流体摩擦抵抗の低減制御に関する研究を行っている.まず,低レイノルズ(Re)数条件下での,壁面一様加熱ならびに冷却を伴う非圧縮空間発達乱流境界層における直接数値計算(DNS)行い,浮力による摩擦抵抗への影響を検証した.結果,冷却によって安定成層が乱流境界層内に形成され,乱れが抑制されることによって摩擦が達成されることが分かった.しかし,既に同条件でのDNSで確かめられている壁面一様吹出しによる摩擦抵抗低減と比較し,正味のエネルギー削減は望めないことが分かった.以降は吹出しによる摩擦抵抗低減に着目して研究を展開する. 本研究では高Re数および高マッハ(Ma)数条件化での吹出し効果の検証が必要となる.高Re数条件での効果を見るため,多孔板とガストプロワで吹出し装置を制作し,風洞内で熱線流速計計測を行った.結果,主流方向平均速度分布が壁面からシフトし,DNSと同様の結果が得られた.また,乱流モデルを計算に導入し,デタッチドエディシミュレーションを行った.まず,一様吹出し吸込みを伴うチャネル乱流で検証を行い,Re数依存性を調べた.その結果,吹出し壁側で摩擦Re数上昇に伴い抵抗低減率が増加する傾向が見られたが,摩擦Re数が8000付近で低減率が頭打ちになることが確かめられた.超音速乱流境界層での検証のため,まず一様吹出し吸込みを伴う超音速チャネル乱流で検証を行った.摩擦Re数を200,バルク速度で定義されるMa数を1.5として検証を行った.その結果,吹出し壁側で摩擦低減が確認された.摩擦の成分分解を行った所,非圧縮境界層での吹出しと同様のメカニズムで摩擦低減が達成されており,圧縮性の影響はほとんど見られなかった.その後,空間発達超音速境界層に拡張し,Ma数を0.4および1.5として計算を行った.結果,今回のMa数の範囲では,圧縮性の影響はほとんど見られずに,摩擦低減が達成された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた研究を実施出来た。しかし,デタッチドエディーシミュレーションの空間発達乱流境界層への拡張,超音速境界層でのより広いマッハ数範囲での吹出し効果の検証が次のステップとして残っている.また,当初計画していたAttached Eddy Modelによる,摩擦抵抗のモデル化は,コードの検証から先に進められておらず,本コードを用いた摩擦抵抗のモデル化を推進する必要が有る.
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今後の研究の推進方策 |
高レイノルズ数空間発達乱流境界層での摩擦抵抗低減について重点をおく.今回用いたDESを用いた計算では乱流モデルの妥当性が不明確となる.より高いレイノルズ数でのDNSを用いて,大規模構造渦による摩擦抵抗への影響の違いを検証するためにスーパーコンピュータによる大規模計算を行う.本研究は,学術振興会特別研究員における私の受入れ教員及びスウェーデンのストックホルム王立工科大学(Kungliga Tekniska Hogskolan, KTH)のOrlu教授およびSchlatter教授との共同研究となる.また,計算コストの緩和を狙い,DESを空間発達境界層化に拡張して吹出し効果のレイノルズ数依存性を調べる.さらに,Attached Eddy Modelによる摩擦のモデル化にも取り組む.超音速境界層での検証では,より多くのマッハ数で検証し,吹出し制御のマッハ数依存性を考察する.
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