研究概要 |
本研究は, シロアリの兵隊カースト分化調節の至近機構を明らかにすることを目標としている. 兵隊は幼若ホルモン(JH)量の上昇に伴って職蟻から分化するカーストで, その分化は巣内の兵隊が少ないと促進され, 十分だと抑制される. 兵隊分化調節には, 兵隊による起動フェロモンの分泌と, 職蟻でのフェロモン受容, 幼若ホルモン(JH)量の変化, 後胚発生の制御が関係するとされるが, 詳細は不明である. そこで本研究では, ①GCMSやLCMSを用いた化学生態学的解析と, ②次世代シークエンサー(NGS)を用いた分子生物学的解析により, フェロモン受容や発生制御の至近機構を明らかにすることを目的とする, 材料はヤマトシロアリReticulitermes speratusである. 職蟻並びに兵隊の体表洗浄物中に含まれる有機物を解析・比較したところ, 本種の兵隊には, 職蟻にはない特異的な有機物が多く含まれることが明らかになった. これらの特異的な化合物が兵隊分化の制御に重要な役割を果たしている可能性が示唆されたため, 兵隊で特に顕著だった2つの物質に関し, シリカゲルカラムクロマトグラフィーによる分画を試み, その物質を単離することに成功した. 今後はディッシュアッセイやLCMSを用いたJH量の測定により生物学的な効果を評価していく. 更に, 「兵隊の影響を受けなかった職蟻」と「兵隊の影響を受けた職蟻」のRNA-seqを行った. 職蟻由来のmRNAから再構成された約18万個のコンティグを利用した発現解析をした結果, 兵隊の不在・存在によって有意に発現量が変動するコンティグが明らかになった. それらのGO解析の結果, 細胞周期の抑制的制御や生体異物の膜輸送に関係する遺伝子の発現量が兵隊の存在によって上昇していることがわかった. 今後はこれらの候補遺伝子の, 兵隊分化制御における役割を明らかにしていく.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
化学生態学的解析では, 昨年度立ち上げたGCMSの解析フローを用いて, 予定よりも大量のサンプルを効率的に解析することができた. 更に兵隊特異的な有機化合物の同定にも成功し, 残る実験計画であるアッセイに余裕を持って取り組むことができる. 分子生物学的解析では, Hiseq2000によるシークエンス結果とバイオインフォマティクスによって得られた, カテゴリー間で異なる発現パターンを示す遺伝子について様々な観点から精査することができ, 今後の機能解析に大きく寄与すると考えられる. これらの理由から, 当初の予定を大幅に上回っていると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
化学生態学的解析では, 同定・単離した兵隊特異的な有機物を職蟻に投与し, その際の兵隊分化率や職蟻のJH量の測定により, 生物活性を評価していく. 分子生物学的解析では, スクリーニングによって得られた候補遺伝子について, 現在行っているリアルタイム定量PCRによる発現パターンのconfirmationを行っていくことと, 今後は機能解析も行う予定である. また, より頑強性のあるデータ取得を目指し, 繰り返し数を増やしたシークエンスも準備している.
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