報告者は日中の社会関係の道具性と拡張性の違いや、そうした違いによって生みだされる関係形成におけるシグナリングへの期待の違いと日中間の信頼行動の違いとの関連を検討することを目的とする。平成25年度では主に下記のことを実施した : 1)信頼に関する行動実験 日本国籍の一般人参加者約500名を対象に、実験室において信頼ゲームを実施した(実験は玉川大学脳科学研究所で行われている研究の一部として実施した)。また、信頼のシグナリング効果を比較するために、同じ参加者を対象に、信仰ゲームも実施した。さらに昨年度同一参加者に実施したGuanxi尺度の回答得点の間の関連性を調べることができた。結果、以前の日中比較実験で報告された日本人サンプルのゲーム行動差がないことを再確認してたのみならず、日本人の信頼行動が相手へのシグナリングを重視する程度の個人差とは相関しない点も新たに確認している。これらの結果は報告者の予測を支持するものであり、今後の中国データの収集に対して大きく寄与するものである。 2)他者への配慮(social mindfulness)に関する多国間比較実験 近年他者への配慮(social mindfulness)の文化差が注目を集めている。報告者は信頼行動と関係性への志向の間の架け橋となる可能性があることに着目し、アムステルダム自由大学のvan Lange教授らを中心とした世界23ヶ国の他者への配慮行動の文化比較実験プロジェクトに日本での担当者として参加した。配慮傾向の文化差及びこれらの行動と利他・信頼行動の文化差との関連を検討することができた。 3)信念と行動の文化内自己再生産プロセスに関する日中オンライン調査 本研究の理論的根幹となる社会においての信念と行動の自己再生産プロセスを実証的に検討するため、日本と中国においてオンライン調査を実施した。結果、他者信念―自己信念―行動の自己再生産プロセスを確認することができた。
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