本研究ではグローバリゼーションの進展において世界の貧困削減と格差是正を達成する為に、効果的な開発戦略、開発援助の役割について政策提言をすることを目的とし、実証分析と事例分析を行う。世界の経済構造が大きく転換する中、2015年以降の国連開発目標策定に向けて、国際開発コミュニティーでは、貧困削減や格差の課題、援助のあり方についての議論に注目がなされている。本研究成果は、これらの議論に知的貢献するものである。 昨年度は、文献精査、モデルの構築、パネルデータベース作成、グローバリゼーションが貧困・成長・格差に及ぼす影響の実証分析(諸国横断面分析)を行った。その結果を踏まえ、今年度は、援助の経済成長促進/貧困・格差削減効果の実証分析を行った。また、実証分析で貧困削減の国特有の効果が高いと示されたエチオピアにて現地調査を実施し、事例分析を行った。 実証分析結果は、経済援助は成長促進効果により、社会援助は分配効果により貧困削減に寄与することを明示した。これまで総データを用いた実証分析結果に基づき援助の有用性が過小評価されてきたことに対し異論を唱え、開発援助の成長・分配効果の双方を活かし、効果的に貧困削減を成し遂げる重要性を示唆している。また、海外直接投資や貿易が富裕層により恩恵をもたらす傾向を指摘し、それらの恩恵が貧困層に行き渡るよう開発援助が果たす補完的役割の重要性を示唆している。従来、開発援助の有効性の議論は受入国の政策スタンスに着目してきたこと対し、本研究は制度の質という新たな視点を提供している。事例分析結果は、開発援助の有効性に寄与する制度の質向上への取り組みに、それぞれの途上国の有する特殊性が強く反映されている事を示している。 この研究成果を博士論文として纏め、今年度末に出版予定である。また、世界銀行ポリシー・ワーキング・ペーパーとして公開した後、学術論文にて出版予定である。
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