研究課題/領域番号 |
12J03518
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
山口 康宏 大阪大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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キーワード | ヘビーメソン / ハドロン分子状態 / パイオン交換力 / ペンタクォーク状態 |
研究概要 |
本研究はヘビーメソンと核子の束縛状態または共鳴としてのハドロン分子状態の探索を目的としている。ヘビークォークは非常に質量が大きいため、クォークの質量に反比例するクォーク間のスピン-スピン相互作用が抑制される。そのためヘビー擬スカラーメソンとヘビーベクターメソンの質量の縮退がおこり、それがパイオン交換力を系に出現させる。パイオン交換力は強い引力を生み出す。特に、軌道角運動量が異なるチャンネルを混ぜるパイオン交換力のテンソル項が束縛状態形成に重要な働きをする。本研究では、ヘビーメソンと核子の間に働くパイオン交換力のテンソル項に着目し、ヘビーメソン-核子系に対するSchrodinger方程式を解くことによって、束縛状態と散乱状態の解析を行った。ヘビーメソンとして、反D中間子とB中間子(以下P)、そしてその反粒子であるD中間子と反B中間子(以下Pbar)について解析を行った。このときPN系にこでNは核子)はクォーク-反クォーク対消滅に対して安定で、少なくともクォーク4つと反クォーク1つでできたペンタクォーク状態である。このような状態の存在はいまだ確証がなく、本研究で予言される状態は新たなペンタクォーク状態を提案する。また、PbarN系は通常のヘビーバリオンと結合する状態であるが、その束縛状態や共鳴は、ハドロン分子としての構造をもったヘビーバリオンの励起状態として観測されると期待される。これらの系の解析は、ハドロン間のパイオン交換力が、近年ヘビーフレーバー領域で議論されているハドロン分子状態の形成において重要な働きをしていることを示し、またそれにより期待される新たな状態を予言する。当該年度で研究を行った結果、PN系、PbarN系ともに多くの束縛状態・共鳴を予言した。これらの状態形成にはパイオン交換力のテンソル力が強い引力を生成する原動力となっていることが確かめられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度では、ヘビーメソン-核子の2体系について束縛状態、散乱状態の解析を行った。量子数としてJ^P=1/2^±,3/2^±,5.2^±,7/2^±と多くの状態に対して解析を行い、大きな角運動量を持つ状態についても共鳴状態があることを予言できた。結果を考察することによってパイオン交換力のテンソル項が重要な働きをしていることがわかった。また本研究で得られた多くのスペクトラムを比較することによってこの領域に現れるハドロン分子状態の構造に対する理解にも進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
本研究1年目の成果として、ヘビーメソン-核子間でパイオン交換力のテンソル項が強い引力を生み出すことがわかった。これにより、ヘビーメソンは1核子のみならず、核子多体系とも束縛状態を作ることが期待できる。今後は、ヘビーメソン原子核系などの解析も視野に入れ、研究を進めていく。ヘビーメソン-核子による少数多体系の束縛状態・共鳴は、我々に様々な情報を与えてくれる一方で、その解析には困難が伴う。まずは、原子核分野で用いられているような少数系に対する固有値方程式を解くことができる手法をハドロン物理に適用し、その解析を試みる。特にパイオン交換力を精密に取り入れ、系の束縛エネルギーや共鳴位置・幅、波動関数の構造を解析する。
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